日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/1/26
(イラスト:三島由美子)

実際、睡眠不足はその自己選択的な行動も含めて本当に病気として扱われている。国際的な睡眠・覚醒障害の診断基準でも「睡眠不足症候群(insufficient sleep syndrome)」という立派な病名がついている。寝不足自慢をする人には「寝食を忘れて何かに打ち込む」ことを美徳だと感じている人が多い。「病気」と言われて腹を立てる人もいる。私もその気持ちは分かるが、健康生活の持続可能性の観点からは異議がある。

ここで睡眠障害国際分類(International Classification of Sleep Disorders)による睡眠不足症候群の診断基準を紹介する。理解しやすいように表現を書き直してある。

以下のA~Fまでを満たしたときに診断する

A. 耐えがたい眠気があり、実際に日中に居眠りをしてしまうことが毎日ある。
小児では異常行動(いらいらや落ち着きなさ)として出現することもある。
B. 睡眠日誌やアクチグラフ(ウェアラブルデバイス)によって、
同年代の平均的な睡眠時間よりも実際に短時間睡眠であることが確認される。
C. 睡眠不足の睡眠習慣が少なくとも3カ月間、ほとんど毎日認められる。
D. 目覚まし時計などを使わない週末や休暇中には寝だめが見られる。
E. 睡眠時間を十分確保すれば眠気の症状が解消する。
F. 症状は他の睡眠障害、薬物、疾患が原因ではない。

この診断基準からも分かるように、短時間睡眠による症状(眠気)があるかどうかが診断の決め手であり、短時間睡眠の理由や状況は考慮されない。食習慣が原因で糖尿病や痛風になった時でも、なぜ食べ過ぎたのかは問われないのと同じである。

やむを得ず睡眠不足になる人は少数派

診断基準上の不備があるとすれば、睡眠不足による症状が眠気に限定されている点である。これは従来から論議されてきたのだが、先に挙げたような倦怠感や消化器症状などその他の症状は、眠気に比べて出現頻度や症状の出方に個人差が大きいため、あえて例示していない。一方で、毎日のように眠気があると慣れてしまい自覚できなくなる場合がある。そのため、この診断基準では不十分だとする意見もある。

睡眠不足症候群に陥りやすい睡眠時間を数値で示せない点も、この病気の診断を難しくしている。「同年代の平均的な睡眠時間よりも実際に短時間睡眠であることが確認される」とされているが、必要時間が長い人(長時間睡眠者)では8時間以上眠っても睡眠不足に陥ることがある。個人の睡眠不足度を数値化する方法があればよいのだが、想像以上に難しく、実用化に至っていない。ここら辺の話題は、私の過去のチャレンジも含めて「健康のため譲れない眠り 『必要睡眠量』はどう測る」で解説した。