ニュージーランドのアーダーン首相の「寄り添う語り口」

感情を伴った発語は、共感を引き出すという点で効果が大きい。ことさらにあおり立てるような物言いを避けて、聞き手に寄り添うスタンスで語りかけると、メッセージが届きやすくなる。こういう語り口が巧みなリーダーの一人に、ニュージーランドのアーダーン首相がいる。同国はコロナ禍を最小限に抑え込んだ成功例の一つに数えられていて、同首相はその立役者と評価が高い。

20年3月にはいち早く非常事態を宣言し、ロックダウンに踏み切った。その際、アーダーン首相は深夜にフェイスブックの動画を使って、オンラインで国民からの質問に答えた。子供を寝かしつけた後、自宅から普段着姿でウェブカメラ越しに登場。やわらかい口調で語りかけ、国民と不安を共有した。

スウェットシャツを着て、たっぷりの笑顔を絶やさず、気さくに話し始める。「自然体」とはこういうありようを指すのだろう。演説口調は封印して、友人とのビデオチャットであるかのようにフランクに、でも丁寧に国民からの質問に答えていく。飾らず、気取らず、威張らず、そして穏やかにしゃべる様子は、少なからず国民に安堵をもたらしたはずだ。

同首相が発するメッセージの「Stay home」は、小池百合子東京都知事と同じだ。しかし、その後に言い添える決まり文句が違う。「Be strong, be kind(強く、優しく)」は、同首相が繰り返し使うフレーズだ。日本では「自粛警察」とも呼ばれる、ささくれ立った気持ちを他者への批判として噴出させるケースも生まれた。一方、「強く、優しく」は苦難を国民全体で分かち合う、心の持ち方に導く。人間力の発露を引き出す魔法の言葉だ。

苦難の時にリーダーが国民に語りかけた例としては、フランクリン・ルーズベルト米大統領の「炉辺談話」が有名だ。深刻な不況を受けて、ニューディール政策を導入したルーズベルト大統領は1933年から、ラジオを通じて、座談形式で国民に語りかけた。ラジオから言葉の暖を取るかのように、国民は耳を傾けたという。人間味を感じさせる声を生かした、世論操作の手法でもあったが、国家リーダーが肉声でメッセージを届けたという点では画期的なアプローチだったといえる。

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