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既存治療で効果が不十分な患者のための新薬「ゾレア」とは

花粉症の治療薬として長く使われてきたのは、肥満細胞が放出するヒスタミンの働きをブロックする抗ヒスタミン薬だ。飲めば比較的すぐにくしゃみや鼻水は止まる薬だったが、副作用として「眠気」などがあり「飲みたくない」という患者も多かった。そこで登場したのは眠気を少なくした第2世代の抗ヒスタミン薬や、抗ロイコトリエン薬だ。また、ステロイド鼻噴霧薬(スプレー)も局所だけに作用するため安全な薬剤として広く使われるようになった。

しかし大久保教授は「IgE抗体の量が多くヒスタミンなどがたくさん放出される重症、最重症の患者の場合、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、ステロイド鼻噴霧薬だけでは症状が出るのを完全に食い止めることができないことも多かった」と解説する。

そんななか、2019年末に花粉症の薬物治療として新たに認められたのが抗IgE抗体医薬「ゾレア」(一般名:オマリズマブ)だ。これはIgE抗体と肥満細胞の結合をブロック(下図)することで症状を抑える注射治療の新薬で、花粉症に対する抗体医薬としては世界で初めてのものだ。花粉飛散中、2週間または4週間に一度の注射(皮下注射)が必要だが、従来の治療で満足のいかなかった患者には朗報だ。

ゾレアや抗ヒスタミン薬はなぜ効く?

「ゾレア」はこれまでの臨床試験で鼻や目の症状に高い有効性が認められている。大久保教授はその効果について、「例えば、鼻症状の場合、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの各症状は、それぞれ0点から4点(3症状で12点満点)で評価される。その合計点数が9点以上の重症の患者では、抗ヒスタミン薬を使ってもだいたい1点、ステロイド鼻噴霧薬を使っても1.5点ほどしか改善できない。しかし、ゾレアを併用し始めると2週間後には合計で3点程度とほぼシーズン前と同じ状態にすることができた」と解説する[注1]

[注1]0点でないのは、アレルギー性鼻炎ではない人でも、くしゃみや鼻水などが出ることがあるため。

「スギ花粉」に対するIgE数値が高い患者にのみ使用

ゾレアは、体内のIgE抗体が原因で発症する疾患である気管支ぜんそくやじんましんの重症者の治療薬として使われてきた。花粉症では、現在のところ12歳以上の患者で、血液中の抗体の検査でスギ花粉によることが明らかな特異的IgE抗体が高い患者にのみ使用できる(詳細は後編で解説)。

また、他の抗体医薬と同様に薬価が高い。2020年4月に薬価の引き下げが行われたが、それでもゾレア1本当たり(150mg)の費用は約3万円(3割自己負担の場合の窓口支払額は約9000円)かかる。それを花粉症シーズンである2~4月に、投与量や投与回数を増やして使うとなると患者の負担は大きい。

それでも大久保教授は「重症の花粉症患者は国内に推定100万人おり、費用などの課題を考慮すると1万~2万人がゾレアによる治療を受けられると考えている。例えば、自治体によっては中学生や高校生の医療費が全額助成されるので『受験の季節の花粉症で悩んでいるので利用できないか』など相談されるケースも増えている」と話す。

ゾレアによる治療は、どんな人に有効で、どのような手順で治療が行われるのか、後編で詳しく紹介する。さらに、重症度別の花粉症対策のポイントや、オンライン診療について知っておきたい情報も紹介する。

(文 荒川直樹、イラスト 平井さくら)

[日経Gooday2020年1月5日付記事を再構成]

大久保公裕さん
日本医科大学大学院医学研究科 頭頸部感覚器科学分野 教授。1984年日本医科大学卒業、88年同大学院修了。89~91年米国国立衛生研究所(NIH)アレルギー疾患部門へ留学。日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科部長、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会理事長、奥田記念花粉症学等学術顕彰財団理事長、日本耳鼻咽喉科学会代議員。専門は鼻科学、アレルギー学、鼻科手術。

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