日経ナショナル ジオグラフィック社

ミーチェン氏らは、DNAの痕跡を調べることで、ジャーが今はもういなくなっているオオカミのグループに属していたことを突き止めた。

このオオカミには、アラスカとユーラシア両方のオオカミと遺伝的なつながりがあったが、現在ユーコンに生息するオオカミは、それとは異なる遺伝的特徴をもっている。つまり、最初にユーコンで暮らしていたハイイロオオカミは死滅し、そのときすでに南方に進出していたグループに取って代わられたと考えられる。

「太古のDNAは、進化の歴史や過去の生態系が想像以上に複雑であることを教えてくれます」とマーチー氏は話す。ジャーの遺伝子がなければ、このような死滅や置き換わりが起こっていたことはわからなかっただろう。

若くして死んだ太古のオオカミ

ジャーはどのような生活を送っていたのだろうか。生後7週間で死んだということは、ちょうど乳離れして通常の食べものを口にし始めていたはずだ。歯の特徴から、ジャーは川で食料を得ていたらしいことがわかっている。現代でもこの辺りに生息するキングサーモンのような魚かもしれない。現在のアラスカに生息するオオカミの多くも、大型の動物よりも魚を食べることのほうが多い。

だが、ジャーは若くして死ぬことになった。死因は、巣穴が崩壊したことではないかと考えられている。短時間で埋まったことが、良好な保存状態につながった。ホッキョクジリスやクロアシイタチなど、この時代の他の哺乳類にも、同じようにして保存されたものがある。

ジャーは、2つの氷河時代の間に生きていたというだけでなく、今は別々になっている2つのオオカミのグループの間に存在していた。

ジャーの遺伝子を研究すれば、太古の世界におけるこのオオカミの位置づけや、その時代から何が変わったのかについて理解を深められるはずだ。バーネット氏は、「古代のDNAは、更新世後期のダイナミックさをありありと描き出してくれます。このようなことは、骨からだけではほとんどわかりません」と話している。

更新世を通して動物の生態はどのように変化していったのか。それは、保存されているサンプルに残された古代のDNAの痕跡から、明らかになり始めたばかりだ。しかし、ジャーは重要な手がかりを与えてくれる。骨と遺伝子を組み合わせて研究すれば、氷河時代の失われた世界をのぞく新たな窓を手にすることができる。

次ページでも、発見された貴重なミイラの写真をご覧いただこう。

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