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ロボと老化学を結ぶ50代の挑戦 研究は「壮大な趣味」

女優 いとうまい子さん

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NIKKEI STYLE

 地球温暖化、感染症のパンデミック(世界的な大流行)、エネルギー問題、再生医療、民間宇宙開発、そして人工知能(AI)……。人類の未来を左右する大きなテーマは、どれも科学の知見が欠かせないものばかりだ。そんな時代を生き、よりよい社会を築くにはどうしたらいいのか。科学の学びを生かし、それぞれの目標をめざす「サイエンスアスリート」から、そのヒントを学ぶ。

アイドル歌手としてデビューし、女優として活躍を続けるいとうまい子さんは、早稲田大学大学院の博士課程で老化学を研究するサイエンスアスリートだ。修士課程から介護予防ロボの開発も続けている。科学の道に踏み出した理由や研究生活などについて、オンラインでインタビューした(写真はいとうまい子さん提供)。

デビュー5年後の厳しい経験

――45歳のときに大学に入学されました。どんな思いがあったのでしょうか。

「私は高校を卒業してすぐに芸能界に入ったのですが、ずっとコンスタントに仕事してこられたのは、私を取り巻くすべての人のおかげです。仕事を始めて25年を過ぎた頃にそうした気持ちが芽生えました。それで恩返しのすべを大学でさがせたらいいなと」

「私はデビュー後5年で、最初の事務所を辞めています。事務所の方向性に納得できなかったのが理由ですが、テレビや映画、CMの仕事は一切なくなりました。それでも舞台だけは続けられた。ファンやスポンサー、さらにそのスポンサーの商品を買う人が支えてくれていたんです。そう考えられるようになったら、だんだん街ゆく人みんなが大切と思うようになったんですね」

――学部時代はどんな研究をされましたか。

「(だれもに役立つ)予防医学を研究したいと思っていたんですが、この分野の先生が退官のためゼミ生を取らないことになったんです。周りの学生に相談したところ、人気があったのがロボット工学。ロボットのことは何も勉強していなかったのですが、予防医学をロボットと融合させたら何か化学変化を起こせそうだとゼミの先生に伝えたら『ちょっと面白そうだね』と。それでゼミに入れてもらいました」

――そもそもなぜ予防医学に興味を持ったのでしょうか。

「10年くらい前に、東京大学医科学研究所の教授にインタビューするお仕事があったのですが、その準備で何冊か本を読んでいるうちに、予防ってものすごく大切だなぁって感じたんですよ。国民皆保険制度がある日本は予防が手薄になっていることもわかって、この分野で何か身につけたら、みんなに恩返しができると思ったんですね」

――予防とロボットをどう結びつけたのでしょうか。

「ゼミ生の中に、高齢者の(足腰が弱る)ロコモティブシンドローム(運動器症候群)をロボットを使って防ぎたいと考えている四国の整形外科医の方がいたんです。私が考える予防医学とのつながりを感じて、私も研究してみようと」

「高齢者にロコモティブシンドロームの予防効果がある運動を促せないかと考えたのが、一緒にスクワットしてくれるロボットです。それを国際ロボット展の大学ブースに展示したら、センサー機器メーカーの旭光電機(神戸市)の方から『もし大学院で研究を続ける思いがあるなら、ぜひ一緒に』と声をかけられました」

――それで大学院への進学を。

「大学院、どうやって入るのかなあと思ってゼミの先生に聞いたら、取得した単位の平均点を出して、一定以上なら推薦もあり得ますよって。調べたら、その点数よりも高かった。主人にも大学院に行かなかったら意味ないと後押しされて、推薦で修士課程に進学しました。そして共同開発したのが『ロコピョン』。毎日決まった時間にかけ声を出して、正しい姿勢で一緒にスクワットしてくれるロボットです。現在はAIベンチャーのエクサウィザーズ(東京・港)と新しいバージョンを共同開発中です」

バリバリの研究者でないからこそ

――工夫のポイントは何ですか。

「高齢者に貢献するものであることを、すごく考えました。若い人なら、ロボットの制御をしたり装置を身につけたりすることは簡単にできると思うんですが、それが難しい場合にどうするか。『いやいやこれはロボットじゃねーだろ』『小学生が作ったんじゃないの』って言う人もいるかもしれない。でも、バリバリのロボット研究者ではないゆるさで、困っている人たちのサポートを考えたからできた形だと思っています」

――もともと勉強好きでしたか。

「嫌いではなかったかもしれないですね。小学校までは結構、勉強していたんですが、中学受験で合格してしばらく安泰になったら、勉強しなくなっちゃいました。たぶん勉強が好きじゃない方の部類なんですが、『乗り越えたい体質』というかゲーム感覚で壁を克服したいタイプなので、大学での勉強はあまり苦にならなかったかもしれない」

――「乗り越えたい体質」はどこから。

「リポート提出やテストを前にすると、具合が悪いとか仕事が忙しいとか、言い訳が頭をよぎるんですが、そのときに『私が大学に入ったのは人に恩返ししたいからで、言い訳を考えている暇があったらやりなよ』って自分に言い聞かすようにしていたんです。それでうまくいったとき、満足物質が脳内にどわーって放出されるんですよ。脳内麻薬ですね。その喜びをまた感じたい、と続けているうちに『乗り越えたい体質』になったような気がします」

――博士課程に進んだ理由は。

「修士課程では私がやりたい恩返しにたどり着けていないな、と思ったからです。でもロボット工学の先生は博士課程を担当していなかったんですね、残念ながら。それで、ずっと興味があって単位も取っていた基礎老化学を考えました。面接ではロボットと、バイオ系の基礎老化学は全く違うと言われて、ちょっと意地悪な質問もされましたが、基礎老化学の知識はもっていたので、なんとかクリアできました」

「博士課程のテーマは体の中からの抗老化で、細胞に作用して老化を防止する成分について研究しています。ロボット研究も、エクサウィザーズで続けているところです」

――体の中からの抗老化とは。

「食事を30%制限されたアカゲザルは、満腹まで食べていたサルと比べて30年後の見た目が若いまま保たれるという過去の研究結果があります。それで、人間も同じようにカロリー制限すると老化を遅らせられるのではないかと考えられているんです。ただ、カロリーを30%減らすってめちゃくちゃ大変じゃないですか。それで私が授業を受けた基礎老化学の教授は、細胞に摂取カロリーを実際の70%と勘違いさせる成分をさがしているんです」

「かつてレスベラトロールという成分にその効果が期待されたんですが、実際はあまりにたくさんのレスベラトロールを摂取しないとその効果が発揮されないことがわかったんですね。私はもっと現実的な成分をさがしていますが、そう簡単にはいかず、はっきり有望といえる成分は見つかっていません」

――どんな研究生活を送っていますか。

「早稲田の大学院に所属しながら、東京大学の農学部と共同研究させてもらっています。細胞の培養は東大でやっているんですが、仕事が終わった後、夜中の研究室に行き、増えた細胞を移し替える継代(けいだい)をしたり、試薬を入れて分析したり。色々と教えてもらい一人でもやれるようになりました。すごく恵まれた環境です」

――研究を仕事にする可能性はありますか。

「どうでしょうかね。博士課程が修了しても研究生として来てもいいよ、と言ってもらえていますが、基本的に研究は趣味ですね。研究者になりたいという大それた目標があるわけでも、教授になりたいわけでもないんですよ。でもこれってすごく面白い。夢があるというか。ずっと続く果てしない旅をする壮大な趣味を手にしたという感じですね」

「細胞は放っておくとシャーレの中で増えていっぱいになり、死んでしまいます。どんなに仕事が入っていても、中1日か2日で見に行かないといけないわけですね。自分が育てている細胞を大事に大事に扱い、ワクワクしながら結果を待って、ダメだったら何がいけなかったのか考え、別のアイデアを試す。うまくいったらめちゃくちゃうれしい。その過程が楽しいです」

――研究が大変だなと思うことはありませんか。

「大変かどうかでいうと本当に大変ですよ。簡単に結果は出ないし、結果ありきで、それに近づけるように実験を進めるのはインチキになってしまうし。でもずっと続けていって、誰かのためになるような成果が出るかもしれないと想像したら、やっぱり楽しい」

「仕事と全然違う分野で、45歳になってからの学びだからこそ、楽しめているのかもしれないですね。仕事に関連した学び直しだと『あんなにやってきたのに』と神経を擦り減らすと思うんです。今は学生生活を満喫していますね」

方向は後から変えられる

――科学との新たなつきあい方を感じます。

「仕事としてサイエンスに取り組んでいる人には怒られてしまうかもしれませんが、これからの時代は私のように『壮大な趣味』を持った50代以上が大学に入るのはいいかもしれないですね。何か楽しみを見つけられるし、気持ちが若返ると思うんですよ」

――進路で悩む学生にアドバイスを。

「私は学部でゼミを決めるとき、これからの人生を決める一本の道を選ぶような切羽詰まった気持ちになりました。これを決めちゃったらもうほかには行けないんだ、って。でも博士課程で領域替えしたり、早稲田で研究しながら、ご縁があって東大でも研究することになりました。一度決めたらこれで生きねばならないと縛られずに、後から違う方向にいくこともできるというのは知ってほしいなあと思います」

「芸能界に入りたての頃、にっちもさっちも行かなくなったことがありました。それくらいダメでもやり直しはできるので、思い詰めないでいいということを、頭の片隅にでも置いてもらえるといいですね」

(聞き手はライター 鴻知佳子)

いとうまい子
1964年生まれ、愛知県出身。80年代からアイドル歌手として活躍し、「不良少女とよばれて」などのテレビドラマに出演。2010年に早稲田大学人間科学部eスクールへ入学し、14年に卒業。同大大学院の修士課程に進み、現在は博士課程に在籍。AIベンチャーのエクサウィザーズでも、フェロー(特別研究員)として介護予防ロボットの研究開発に取り組む。

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