――どんな研究生活を送っていますか。
「早稲田の大学院に所属しながら、東京大学の農学部と共同研究させてもらっています。細胞の培養は東大でやっているんですが、仕事が終わった後、夜中の研究室に行き、増えた細胞を移し替える継代(けいだい)をしたり、試薬を入れて分析したり。色々と教えてもらい一人でもやれるようになりました。すごく恵まれた環境です」
――研究を仕事にする可能性はありますか。
「どうでしょうかね。博士課程が修了しても研究生として来てもいいよ、と言ってもらえていますが、基本的に研究は趣味ですね。研究者になりたいという大それた目標があるわけでも、教授になりたいわけでもないんですよ。でもこれってすごく面白い。夢があるというか。ずっと続く果てしない旅をする壮大な趣味を手にしたという感じですね」
「細胞は放っておくとシャーレの中で増えていっぱいになり、死んでしまいます。どんなに仕事が入っていても、中1日か2日で見に行かないといけないわけですね。自分が育てている細胞を大事に大事に扱い、ワクワクしながら結果を待って、ダメだったら何がいけなかったのか考え、別のアイデアを試す。うまくいったらめちゃくちゃうれしい。その過程が楽しいです」
――研究が大変だなと思うことはありませんか。
「大変かどうかでいうと本当に大変ですよ。簡単に結果は出ないし、結果ありきで、それに近づけるように実験を進めるのはインチキになってしまうし。でもずっと続けていって、誰かのためになるような成果が出るかもしれないと想像したら、やっぱり楽しい」
「仕事と全然違う分野で、45歳になってからの学びだからこそ、楽しめているのかもしれないですね。仕事に関連した学び直しだと『あんなにやってきたのに』と神経を擦り減らすと思うんです。今は学生生活を満喫していますね」
方向は後から変えられる

――科学との新たなつきあい方を感じます。
「仕事としてサイエンスに取り組んでいる人には怒られてしまうかもしれませんが、これからの時代は私のように『壮大な趣味』を持った50代以上が大学に入るのはいいかもしれないですね。何か楽しみを見つけられるし、気持ちが若返ると思うんですよ」
――進路で悩む学生にアドバイスを。
「私は学部でゼミを決めるとき、これからの人生を決める一本の道を選ぶような切羽詰まった気持ちになりました。これを決めちゃったらもうほかには行けないんだ、って。でも博士課程で領域替えしたり、早稲田で研究しながら、ご縁があって東大でも研究することになりました。一度決めたらこれで生きねばならないと縛られずに、後から違う方向にいくこともできるというのは知ってほしいなあと思います」
「芸能界に入りたての頃、にっちもさっちも行かなくなったことがありました。それくらいダメでもやり直しはできるので、思い詰めないでいいということを、頭の片隅にでも置いてもらえるといいですね」
(聞き手はライター 鴻知佳子)

1964年生まれ、愛知県出身。80年代からアイドル歌手として活躍し、「不良少女とよばれて」などのテレビドラマに出演。2010年に早稲田大学人間科学部eスクールへ入学し、14年に卒業。同大大学院の修士課程に進み、現在は博士課程に在籍。AIベンチャーのエクサウィザーズでも、フェロー(特別研究員)として介護予防ロボットの研究開発に取り組む。