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アクリル絵の具で自画像を描く(筆者撮影)

アクリル絵の具で自画像を描く(筆者撮影)

東京大学にも多くの合格者を輩出する海城中学高等学校。同校では美術授業を通じて、「正解」がない人生にどう向き合うかも教えている。海城版STEAM教育は何を目指しているのか。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が美術教育の現場を取材した。

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変革期にある海城の美術教育

海城の校舎の妙にオープンエアなトイレの横の一画に、混沌とした空間がかつてあった。美術室であることは間違いないのだが、あまりに雑然としていて、それ自体がアートになっている印象があった。しかし久々に通りかかったそこは、整理整頓されていた。「主」が変わったようだ。

中1の授業が始まると、新しい「主」は、教室全面の白い壁にパワーポイントのスライドを映写して、2コマ続きで行われるその日の授業の流れをざっと説明した。5分間のデッサン練習のあと、作業途中の自画像の上塗りに取りかかる。休み時間を挟んで後半の授業の冒頭には「古今東西美術話2」というコーナーが設けられている。その後再び上塗りに取りかかり、その日の作業記録を記入して後片付け。

自画像に関する授業は全18コマでの構成。「自画像とは」という授業から始まり、「アイディアスケッチ/目標設定」「下描き」「背景表現」「下塗り」などを経て、この日が2回目の「上塗り」の工程に当たる。その後「仕上げ」を行い、18コマ目の「作品鑑賞会」が最終回。

生徒たちが手にしているのはアクリル絵の具。すでに背景や服や髪の毛はだいたい描けている。のっぺらぼうの状態の顔に、明暗を描き、立体感を出していく。「黒は強いから、背景色を溶かし込むと絵としてうまく見えますよ」というくらいのコツは教えるが、そもそもどうやって自分の顔の凹凸を表現するのかという技巧的な説明はない。だから生徒たちはそれぞれに独自の描き方をしている。

男子校の美術の時間にありがちなおふざけはほとんどない。「主」が、常に穏やかな表情でぼくとつと語るからかもしれない。生徒たちは落ち着いて、安心して、自画像に集中する。「主」は、天野友景さん。2020年4月から専任の美術教員になった。

海城に来る前は、3校の公立学校で教えていた。06~08年には講師として海城で教えていたこともある。そんな縁があって、「先生らしい美術をつくっていけばいいよ」という言葉とともに、前任の教員から美術室の鍵を受け継いだ。

「教室の中に所狭しとモチーフやイーゼルが並ぶ様は美大のアトリエのようでした。中1における美術の必要時数は通常1.3時間くらいなのですが、海城では2時間続きの授業が行われており、作品に向き合う時間がしっかりと確保されていることが印象的でした」(天野さん)

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