「女性が輝く」と語り総スカン

――それがきっかけで女性の活躍が進んだのですか。

「でも、就任から半年後の年頭挨拶は大不評でした。私は味の素を『日本で一番女性が輝く会社にする』と話したのです。女性陣から喜ばれると思ったのに、『私たちは輝いていないのか』と総スカンをくらいました。それもあって、しっかりと現状を説明した上で本腰を入れて取り組もうということで、ダイバーシティーとワークライフバランスに関するコンセプトを策定しました。女性に活躍してもらうための委員会を設置したり、キャリア形成の相談などにのるメンター制度を始めたり、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する研修もスタートしました。19年にようやく、社内出身の初の女性取締役が就任しました。目標までは、まだまだです」

「日本企業がなかなかD&Iがうまくいかないのは、企業が男性中心の組織だからです。日本企業が成長しない中で、女性にポストを充てようとすると、そのポストを空けないといけません。そこには主にシニアの男性社員が就いているわけです。だから、シニア期のキャリアにしっかり向き合う必要があります。特別転身支援施策を作って、昨年6月には144人が社外に転身しました。結果として31の職務が若返りして女性のライン長も増えました」

――反発はなかったのですか。

「ダイバーシティーに理解を示さない人を説得するために、先ほどのデータを用意したんです。多様な組織の方がリーダーは大変です。様々な価値観を持つ人たちの前で、なぜこの仕事をしないといけないのか、仕事の目標と目的をしっかりと語る必要があります。これはものすごい労力がかかります。同じようなキャリアパスの人に向かって話す方が楽に決まっています。目的を言わずに目標さえ言えばいいのですから。でも、これではパフォーマンスは上がりません」

「もちろん、頭でわかっていても嫌だという人はいます。そういう方には退場してください、と言います。そう言えるのは上司だけですが、そこには対話が必要です。転身支援も上級役員が対象者に丁寧に面談を繰り返して、納得してもらったと思っています」

趣味はスキーや登山などだという。「アウトドア好きなので徹底的にやりたい。でも今は時間がない」と封印している

――社長就任後、最もリーダーシップを発揮したのは。

「16年に管理職に導入した、完全ジョブ型の人事制度です。人事部長時代にも人事制度改革に挑戦したのですが、経営会議のメンバーに多数決で負けて中途半端な方式になってしまいました。でも、徹底的にダイバーシティーをやるならジョブ型しかない、と信念を持っていました。なので社長就任から1年もたたずに完全ジョブ型に変更したのです」

「ジョブ型には良い面と悪い面があります。会社組織には、頑張ってようやくそのポストに就いた人や、レールを上がってきた人もいます。でも、ジョブを優先すると人材が若返り、実力主義になります。年功序列じゃないと困るのは、上司なんです。自分がそうされてきたし、後ろについてきている人もいて、もはや部門の利益の代表になってしまっているからです。企業の古い価値観を変えるには、ジョブ型が絶対に必要だと思います」

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