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イタリア料理×薬膳 季節に合わせた一皿で体に優しく

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NIKKEI STYLE

日本で最も親しまれている西欧料理といえば、イタリア料理ではないだろうか。ピザやスパゲティは多くの飲食店で目にするほどポピュラーなメニューであり、料理本も、ビギナー向けから、有名シェフのレシピを伝える本格派、イタリア各地の料理を紹介するマニアックな内容まで百花繚乱(りょうらん)だ。そのイタリア料理に、新しい視点から切り込んだ一冊が登場した。2020年12月上旬に発行された『イタリア薬膳ごはん 体の不調とおさらばできる』(講談社)がそれ。なんとイタリア料理と中医学の考えに基づいた料理である薬膳を掛け合わせた内容だ。

とっぴな組み合わせに思えるが、「実はイタリアには、薬膳に通じる考え方がある」と話すのはイタリアの食文化に関するエッセーや翻訳で知られる著者の中村浩子さん。国際薬膳師でもある。薬膳を勉強しようと考えたきっかけは、母の病気だったという。

「父は内科の開業医、母は薬剤師で、西洋の薬が手に入りやすい環境にあったため、母は体の調子が悪いとすぐこうした薬を飲んでいました。母は人生で6度も手術しましたが、西洋薬に頼っていたのが一つの原因だったのではないかと思われてなりません。母を通して、病を防ぐには病気になる前に体に気を配ることが最善の策であると痛感しました。体調を崩す友人もいる中、ちょっとした不調を感じたときに薬膳を食事に取り入れることで、少しでも体調を改善してほしいと考え、薬膳を学び始めたのです」

どうせ薬膳を学ぶなら、自身の専門分野であるイタリア料理と組み合わせてみようと中村さんは考えた。そうした中で気づいたのは、古くから伝わるイタリアの食の考え方と薬膳の共通点だった。

健康的なイタリア料理の基本になる考え方は古代ギリシャから伝えられた。古代ギリシャの医師ヒポクラテスは医食同源を説き、人には4つの体液(血液、粘液、黒胆汁-こくたんじゅう-、黄胆汁-おうたんじゅう-)があり、季節と環境の変化により体内でバランスが崩れたときに病気になると考えたという。例えば彼は、黒胆汁が過剰なるとうつになるとみなした(黒胆汁を意味するギリシャ語はメランコリーの語源である)。当時、万物は風、水、土、火という四元素からできていると考えられていたが、4つの体液はこれらに対応し、また、おのおのが温性か冷性、乾性か湿性の性質を持つとされた。このヒポクラテスの「四体液説」は、17世紀の西洋医学にまで生かされていたそうだ。

一方、中医学ではものごとはすべて陰と陽に分けられるとし、人は自然の循環に合わせ体の陰陽を調整し、バランスを取る必要があると考える。万物は木、火、土、金、水の5つの元素からなると考え、それぞれ五季(春、夏、梅雨、秋、冬)、五臓(肝臓、心臓、脾臓-ひぞう-、肺、腎臓)、五味(5つの味=酸、苦、甘、辛、鹹-かん-)などに対応している(鹹味-かんみ-は、塩味)。また食材には、寒性、涼性、平性、温性、熱性という5つの性質があると考える。ヒポクラテスの「四体液説」と、驚くほど似ているのだ。

さらに、中世イタリアでは「養生訓」も生まれた。イタリア南部のサレルノにあった、当時最も先進的だった医学校の医師たちが説いた「サレルノ養生訓」だ。西洋で初めて健康維持、病気予防のための指針をまとめた書き物で、その頃最先端であったアラビア医学を取り入れながら、ヒポクラテスの考えも受け継いでいた。四季折々の食養生を勧めた同養生訓には季節ごとのお薦めハーブや野菜も記されているという。

ハーブ類であれば、7月はセージやディル、11月はショウガ、野菜ならば春はホウレンソウ、キャベツなどの青菜、冬はタマネギやポロネギといった具合だ。「例えば、コショウは温性(体を温める性質)なので、医師が体が冷えていると判断したときにこれを用いるなど、食材を用いて体液のバランスを整えていくという考えがありました」と中村さん。こうした食材は、薬膳でも共通するものが多いという。

「薬膳の勉強を始める前は、私もこれほど薬膳とイタリア料理の食材に共通するものがあるとは思っていませんでした。サレルノ医学校には薬草園があって、それを再現した場所を訪れた際にびっくりしたのが、レモンやオリーブ、ブドウ、オレンジなどが植えられていたこと。それぞれの草木の前には、温性、冷性、乾性、湿性といった各食材の性質を示す札が立っていて、イタリア料理に現在使われている食材が、当時は薬草として用いられていたことが初めて実感できたのです」と中村さんは振り返る。

薬膳というと、ナツメ、クコの実といった特別な食材を使わなくてはいけないというイメージが強いが、イタリア料理と薬膳、両方の世界を知ることで、ごく身近な食材を用いても薬膳の考え方を日常に取り入れることができると中村さんは知った。「その上、イタリア料理は家庭料理として発展してきた部分が大きいので、私のようなシロウトでも作れる料理がたくさんある。そうした意味でも、日々の生活に取り入れやすいんです」

季節に応じて体調を整えるため、まず頭に入れたいのが、春、梅雨、夏、秋、冬という日本の五季に合った食材だ。イタリア料理といえば、真っ先に思い浮かぶのはトマトをふんだんに使ったパスタだろうが、「トマトは南米が原産地で、中医学でもどちらかと言えば体を冷やす性質があるとされています。パスタに使われる小麦も、中医学では涼性(体を冷やすもの)。ですから、冬にトマトのパスタを食べると体が冷えに傾くと考えられるのです」(中村さん)

今回の書籍でレシピと料理制作を担当、薬膳のエキスパートを育てる教育機関である本草薬膳学院でイタリア料理教室の講師を務める新田玲子さんは、「そもそも、(イタリアの定番料理である)ミネストローネを作ろうというとき、日本では必ずトマトを入れますが、北イタリアのミネストローネにはトマトは入りません。トマトのパスタも南イタリアの料理で全国的に食べられているわけではないのです」と話す。

冬にお薦めのミネストローネとして彼女が提案するのは、トマトを入れない、クリを使ったスープだ。クリには元気の素となる気を補い、体を温める作用があるという。なお、野菜、穀物、パスタ、コメを主とするプリモピアット(第一の皿)のスープをミネストラと呼ぶが、ミネストローネはその中でもスープが濃く、具が多いものを指すそうだ。

「イタリア料理には、ソフリット(香味野菜を油でじっくり炒めたもの)というだしの素のようなものがあります。セロリなどが使われますが、これは体を冷やす食材。イタリアでは季節ごとにソフリットの内容を変えるという考え方はないと思いますが、薬膳の考えを取り入れ、セロリの代わりに温性の長ネギ(白い部分)を使えば、冬に適しただしの素となります」と新田さんは勧める。

また、冬にはパスタよりもコメ料理であるリゾットが体にいいと話す。「冬は1年間で使い果たしてきた栄養分を蓄えるとき。この時期にきちんと栄養をとると、春から元気にすごせます。この時期にお薦めの料理は、ブロッコリーとエビを用いたリゾット。エビも温性の食材で、ブロッコリーは冬にいたわってほしい腎臓によく作用するからです」(新田さん)

さらに、乾燥する季節なので、体の中の水分を増やすとされるチーズを含めた乳製品を積極的にとってよい時期だそう。そのため、新田さんは長ネギなど野菜を用いたグラタン(パスタは使わない)をここぞとばかりに作るという。

「イタリアと日本の季節で最も異なるのが、イタリアには梅雨がないこと。梅雨の時期は湿気が体内にこもるのでそれを発散させたり、利尿を促したりして体から水分を出すことが重要になります。ただ、イタリアは秋から雨が多くなる季節となるので、この時期にトスカーナで食べる豆入りスープ(一般的に豆には水分を排出する働きがある)などは、梅雨の体調を整える格好の料理となります」(新田さん)。なお、先のチーズは梅雨には控えたい食材となる。こうしてみると、ほんの少し気を配るだけでも、薬膳の考え方を取り入れたイタリア料理を作れそうだ。

現在のイタリアには「サレルノ養生訓」の考え方を意識的に取り入れた料理はあまりないようで、「現地を訪れた際、『サレルノ養生訓』に即した料理が残っているレストランなどはありますかと聞いたのですが、分かりませんでした」と中村さんは言う。一方で、イタリアは中国が推進する広域経済圏構想「一帯一路」に主要7か国(G7)の中で唯一参加しており、移民が増えるなど中国とのかかわりが強くなっている。徐々にではあるが、中医学に関心を寄せる人も増えているという。

中村さんが、今回の著書についてSNS(交流サイト)で紹介したところ、海外の友人、知人から大きな反応があったという。彼女の夢は同書が英語版やイタリア語版となり、世界に発信されることだ。イタリア薬膳は、本場イタリアでも関心が高まっている中医学を取り込み、同国の料理に新しい可能性を開いたと言えるだろう。これから世界的にも注目されるジャンルとなりそうだ。

中村浩子(なかむら・ひろこ)
イタリア食文化文筆・翻訳家、国際薬膳師。東京外国語大学イタリア語科卒。城西大学エクステンションやリンガビーバ東京にてイタリアの食文化の特別講座を持つ。2010年より、日本菓子専門学校のイタリア語外部講師。母の病と看取りをきっかけに薬膳を学び、薬膳の考え方を取り入れた健康増進・病気予防に役立つイタリア料理の考えを広めたいと、国際薬膳師の資格を取得。著書に『「イタリア郷土料理」美味紀行』(小学館文庫)
新田玲子(にった・れいこ)
イタリア料理家、国際薬膳師・国際薬膳調理師。イタリア繊維メーカー勤務ののち、トスカーナ州の企業勤務も含めて通算8年、イタリアで暮らす。滞伊中、イタリア家庭料理研究家、野尻奈津子氏より料理を学ぶ。帰国後2005年よりイタリア料理の会Tiramisu(ティラミス)を主宰。10年より本草薬膳学院にて公開講座として薬膳イタリア料理講座を年6回受け持ち、薬膳イタリア料理レシピは200以上にのぼる。06年より、東京誠心調理師専門学校のイタリア語非常勤講師

(ライター メレンダ千春)

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