トム・ソーヤーに学ぶ「人に気持ちよく動いてもらう法」
――日常の生活や仕事の中に学びがある。
「ビジネス書やビジネス論で『自己啓発』って言葉が昔はやったんですが、今はなんだか一段低く見られている感じがあります。『人を動かす方法は』とか、『こう努力すれば道は開ける』みたいなビジネス論って、ちょっとなめられています。でも僕は自己啓発が不当におとしめられていると思うんです。米国のプラグマティズム(実用主義)って損得勘定のみで人は動くという考え方だ、みたいに誤解されていると感じています」
「例えば小説のトム・ソーヤーの話で、主人公のトムがいたずらの罰として、ペンキ塗りを命じられるんだけど、サボるために知恵を絞ります。トムはペンキ塗りが嫌で仕方ないんだけど、友達が通りかかったので鼻歌とか歌いながら『ああ、なんて楽しいんだろう』とかペンキを塗るわけです。友達は興味を持って、『そんなに楽しいなら、俺にもやらせてよ』って言っちゃうんです。トムはまんまと自分の仕事を人にやらせるんですが、これって自己啓発の話ですよね。『どうやったら人に気持ちよく動いてもらえるか』という、立派なビジネス論というか組織論と言えます」

――ビジネスでの学びは研修のスタイルが多いです。
「ほぼ日が今よりずっと小さかったころ、都内にある外資系高級リゾートホテルに社員と宿泊する、という社員旅行みたいなことをしました。自費で泊まるのはちょっと、という人が多いので、社員旅行にしたのです。ここで社員に経験してほしかったのは、実際にそのホテルではどんなサービスを受けるのかということです。玄関での出迎えから、食事を提供するときのサービス、ホテル近くの観光情報の伝え方とか、ほぼ日の社員にとっては一から十まで参考になることばかりです」
「ほぼ日はサービス業ではありませんが、『一流のサービスって、こうするんだ』と実際に体験することが学びです。そのホテルの個別のサービスが、ほぼ日での仕事に直結はしませんが、お客さんへ接する姿勢とか考え方、どう喜んでもらうかなど多くを学んだと思います。その経験から得たものを、新入社員に伝えてくれていました。仕事や働く上で価値があると思うことを、次の世代に伝えてくれた。これも社会人の学びの一つの形だと思います」
1948年生まれ。法政大中退後、コピーライターとして有名なコピーを多数手がける一方、作詞や文筆、ゲーム製作など多彩に活躍。98年サイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げ、2002年版から「ほぼ日手帳」を発売。17年に「ほぼ日」がジャスダック上場。18年からリアルでの講座形式で「ほぼ日の学校」開始。
(笠原昌人)