ストレス解消にお酒 「やめられない」を抜け出すには
カラダについてのお悩み、ありませんか? 体調がいまいちよくない、運動で病気を予防したい、スポーツのパフォーマンスを上げたい…。そんなお悩みを、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんが解決します! 今回は、お酒を飲むことが唯一のストレス発散法という人のお悩みに答えます。
家でお酒を飲むのが唯一のストレス発散法に…
40代、会社員の女性です。
一人息子が大学生になって独立し、今は夫と気ままな二人暮らしです。趣味はお酒と海外ドラマを見ること。しかし今年はコロナ禍の影響で、会社の同僚や友人たちと飲みに行くことが全くなくなりました。
当然、忘年会の予定などは一切なし。気の置けない友人や会社の仲間たちとの忘年会は毎年、楽しみにしているイベントの一つだったので、とても寂しいです。
一方、外に飲みに行かなくなったことで、家で飲む「宅飲み」が毎日の習慣に。夕食後は、大好きなドラマを見ながら一人好きなお酒を飲む、という生活がすっかり定着しました。
しかも、外食でお金を使わなくなった分、ちょっとぜいたくなワインやチーズ、生ハムをお取り寄せしたり、近所のおいしいレストランの食事をデリバリーしたりと、それなりに楽しんでいます。
ただ確実に体重は増えてきたし、下戸の夫には「少し減らしたら?」と言われることもあります。一応、週に1日の休肝日を設けようとしてはいるのですが…
今や、こうやって家で飲むのが唯一のストレス発散法なので、宅飲みはやめられません。
でも、体重も気になるし、ダイエットもしたいので、飲む回数を減らしたほうがいいのかなと思っています。どうすれば減らせるか、教えてください。
お酒を「ストレス発散の手段」にするのはNG
フィジカルトレーナーという仕事をしている私ですが、お酒は飲みます。基本的に、お酒は、決して悪いばかりのものではないと考えています。
ただ、お酒は「どのように付き合うのか」がすごく重要です。お酒は、ストレス発散の手段にしてはいけません。
「ストレスコーピング」という言葉を聞いたことはありますか? これは、認知行動理論で提唱される方法で、日常生活において様々なストレスを感じた際、戦略的にストレスに対処するための方法です。
ストレスコーピングには、ストレッサー(ストレスの原因)から「距離を置く」「回避する」、そして「ストレスの耐性を高める」「ストレスを忘れる(気分転換)」など、アプローチの種類がいくつかあります。
例えば、仕事がストレッサーだった場合、仕事量を軽減することは「ストレッサーを軽減する」、転職は「ストレッサーを回避する」ことになります。また、映画鑑賞や読書、あるいはスポーツをすることなどは「ストレスを忘れる」ための気分転換であり、いずれもストレスコーピングの一つです。
しかし、このなかに「お酒を飲む」を入れてはいけません。なぜなら、ストレスに対処する方法としてお酒を使うと、アルコール依存症につながる恐れがあり、また飲み過ぎれば、肝疾患や糖尿病、様々ながんなどの病気のリスクも上がるからです。
そもそもお酒を飲んでも、ストレスに対処したことにはなりません。確かに一瞬、楽しい気持ちになり、ストレスを忘れたようにも感じます。でも、実際は、ただ酔っているだけであり、気分転換ができているとは言えないのです。
お酒の問題は、ストレスを忘れたと感じるようになるまで飲もうとすると、次第に量が増えていってしまうことです。その結果、依存症や病気につながってしまう可能性があるというわけです。
お酒をストレス発散の手段にするのではなく、別の方法でストレスに対処すべきです。
「よりおいしいワイン」を求めてエスカレートすることも
ストレス発散の手段ではなくても、お酒を飲むことが「自分の趣味」で、よりおいしいお酒を飲みたいと思っている人がいますが、これも場合によっては注意が必要です。
お酒が好きな人は、おいしいお酒に出会うと、気分がアップしますよね。なぜかというと、"幸せホルモン"と呼ばれる神経伝達物質の一つ「ドーパミン」が脳のなかで分泌されるからです。
以前、この連載で、ドーパミンがドバっと分泌される脳のメカニズムである「報酬予測誤差」についてお話をしました(詳しくは「コロナで外食控えたのに 太る人・太らない人なぜ違う」を参照)。
ワインの例で説明をすると、事前に想像したワインの味と、実際に飲んだときの味の差が良い意味で大きいほど、人は感激し、ドーパミンが多く分泌されます。ドーパミンは別名「脳内麻薬」とも呼ばれ、一度このドーパミンの分泌による快楽を経験すると、人は「もっともっとドーパミンを出したい!」と求めるようになります。
そして、次に飲むときは自分のなかで期待値も上がっているので、さらにおいしいものを飲まなければ満足できなくなります。
その結果、「おいしいワインが飲みたい」という欲求から抜け出せなくなり、そして飲む量がどんどん増えていってしまうと、依存症や病気に近づいていきます。
また、ワインにハマってしまうケースでは、より高いお金を出し、おいしいワインを探すようになります。高価なワインがおいしいとは限りませんが、高いお金を出せばそれなりにおいしいワインが見つけやすくなるので、いつしか経済的に苦しくなってしまうという問題も起きるのです。
読書でもランニングでも「確率50%」に挑戦
こうした問題を踏まえると、お酒好きの方は、飲酒以外でドーパミンを出す方法を見つけたほうがいいのではないかと私は考えます。
ドーパミンは「達成感」を得られたときに、たくさん分泌されます。ですから、「正しい目標設定」をすることが重要になってきます。
人間は「100%達成できる」と感じているものができたとしても、達成感を得られません。成功の見込みが「50%」程度の目標にチャレンジをし、それがクリアできたときに、より達成感が得られるのです(詳しくは「筋トレ嫌いもこれでハマる? 苦手意識を克服する方法」参照)。
例えば、読書なら、「読破する見込みは50%程度」というページ数の多い本を週末に読んでみる。ランニングなら、「達成できる見込みは50%程度」というタイムを設定して走ってみる。
ストレスがあるなら、週に1日でもよいので、こうしたチャレンジをしてみてください。成功すれば、ドーパミンがドバっと出て、お酒に溺れずとも幸せを感じられます。
私もお酒は飲みますが、ストレスを忘れる手段としては使いません。ですから、飲む頻度や量を、しっかりコントロールするように気をつけています。その代わり、別なことで、ときどき小さなチャレンジをします。
最近では、生まれて初めてケーキ作りに挑戦しました。想像以上にうまくできて、その瞬間、モヤモヤした気持ちなど吹き飛んでいました。このように、「これまで全くやってこなかったこと」にチャレンジするのもいいですよね。
ダイエットしたいなら「つまみの量」も調節
さて、相談者の方は、ダイエットもしたいとのことですが、こちらはお酒の量だけでなく、つまみの量も調節することが重要です。
人は酔いが回ってくると、満腹を感じるセンサーが鈍くなります。典型的なのが「飲んだ後のラーメン」。散々、飲み食いした後に「ラーメンは別腹」などと食べに行きますが、あれは酔ったせいで、脳が満腹であることを認識できなくなっているという面もあると考えられます。
宅飲みでは、ポテトチップスのような「スナック菓子」も危ないですね。ビールとポテトチップスという組み合わせも相性が良く、つい、もう1枚、もう1枚と手が止まらなくなり、気づいたら一袋食べきってしまった、という経験は、皆さんもあると思います。
食べ過ぎないコツは、酔う前に食べる量を決めること。あらかじめ、食べる分を皿に用意してから飲み始めることで、食べる量をコントロールできます。もちろん、おかわりは厳禁です。これは、お酒の量についても同様で、飲み始める前に決めておきましょう。
相談者の方のように、毎日のように飲んでいる人が飲むのをきっぱりやめようとしても、それが今度はストレスになります。私は25年以上、パーソナルトレーナーをしていて、お酒好きなクライアントを何人も見ていますが、これまで医者に禁酒を勧告された人以外、飲むのをやめた人や飲む回数を減らせた人はいませんでした。
ですから、お酒もつまみも、量をきちんと決めて楽しめばよいと思います。休肝日は、可能な範囲で設けることにしましょう。
忘年会を毎年楽しみにしていたのであれば、気の合う仲間に声をかけて、オンラインで開いたりするのはどうでしょう。酔って年忘れ、ではなく、皆と楽しく会話とお酒を楽しむ会にすればよいのです。
お酒は、「嫌なことがあったから飲む」のではなく、「楽しむもの」として、これからも良いお付き合いをしていきましょう。
お酒でストレスを発散しようとする人へ…
▼お酒でストレスを発散すると依存症につながる恐れもある
▼「よりおいしいお酒」を求めてエスカレートしてしまう問題も
▼「確率50%」の目標に挑戦して達成感を得よう
▼ダイエットしたいならつまみの量も調整
(まとめ:長島恭子=フリーライター)
[日経Gooday2020年12月17日付記事を再構成]
スポーツモチベーションCLUB100技術責任者/PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。フィジカルを強化することで競技力向上やけが予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。元卓球選手の福原愛さんやバドミントンのフジカキペア、プロランナーの神野大地選手など、多くのアスリートから絶大な支持を得る。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くからモチベーションの大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍。『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP)などベストセラー多数。
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