東京1号店の尾山台店。かつて物件を探しにここを訪れた際、商店街のイベントのにぎわいと来街者の様子を目にして、市場性を確信したという

「けれどもその後、米ブルーボトルコーヒーの日本進出の噂を産地で聞いて、先手を打とうと急いで西麻布の店を開くことになった。さらに国内でも次々とサードウエーブ系の店が開き、競争状態が激変しました。そうした中で、フルサービスで戦うことは必ずしも勝ちゲームにはならないということがわかってきた。気をつけないと既存店の売り上げが前年を下回りかねない状況になったのです」

――顧客は順調に増えていたのでは。

「もう一点、目算が外れたのが、スペシャルティの市場拡大のスピードです。そこは少し楽観的に考えていた。今もスペシャルティのマーケットは着実に、じわじわと広がってはいる。でも思ったほど早く浸透しなかった。想定よりもまだ市場が小さいので、西麻布店と表参道店や渋谷のコーヒーバッグの店が食い合うほどでした」

ショールームに模様替えした西麻布の店には、一般客が旬のスペシャルティコーヒーを飲み比べできるテイスティングスペースも設けた

――閉店を決めたのはいつごろですか?

「店を閉めよう、と決断したのは9月です。実は7月ごろまでは新規出店を考えていたぐらいでした。でも丸山珈琲にとって稼ぎ頭の軽井沢の店の売り上げが、7月、8月と良くなかった。別荘族のお客様も外出を控え、売り上げは平時の8割ぐらいになった。これが1つの警告になりました。やはり喫茶は水物だ、と」

「そこで会社の継続性を念頭に、冷静に計算したんです。豆を売るだけにしたらどうなるかと。すると数字はいい。実際に西麻布も尾山台も豆は売れている。コロナになってさらに伸びた。なるほど、ショールーム的にフルサービスの店を運営しながら豆を売る、という東京での作戦は変えなきゃいけない、という結論がはっきり出た。もう人の目は気にしていられないと」

――店があるから豆が売れる、という相乗効果もあったのでは。

「西麻布も尾山台も喫茶を閉めても豆は売れています。やってみてわかったんですけど、物販というのは機能として独立しているんです。もちろん、集客面でのブランディング効果はありました。ただ、そのお客様が喫茶に通い続けるとは限らない。豆は買い続けてくれますが」