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女の子の名前1位は「陽葵」 ジェンダーレス名も人気

編集委員 小林明

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NIKKEI STYLE

女の子の名前にはどんな流行があるのだろうか? 前回の男児編に続いて、2020年(令和2年)に生まれた新生女児の名前の人気ランキング(明治安田生命保険調べ)を分析してみよう。

トップテンは首位から順に、陽葵(ひまり・ひなた・ひな・ひより)、凛(りん)、詩(うた)、結菜(ゆな・ゆいな・ゆうな)、結愛(ゆあ・ゆい・ゆめ・ゆな・ゆら)、莉子(りこ)、結月(ゆづき・ゆずき・ゆつき)、紬(つむぎ)、澪(みお・れい)、結衣(ゆい)となった。

凛・詩・紬・澪…、女児名でも人気が高い1字名

「陽葵」が首位になるのは、記録のある1912年(明治45年・大正1年)以来、過去109年間で初めて。2013年に9位とトップテン入りしてから7位(15年)、3位(17年)、2位(19年)と人気を高め、同じ「陽」が付く「陽菜」(ひな・はるな・はな)が順位を下げるのと入れ替わるように順位を上げてきた。

トップテンの顔ぶれを見ると、男児名と同様、1字名の人気が高いことが分かる。

2位に「凛」、3位に「詩」、8位に「紬」「澪」が入った。いずれも和風でやや古風だが、愛らしくて呼びやすいので親しみが湧く。名前から物語が浮かんでくるような文学的なイメージもある。

「凛」は14年と19年に首位になったこともあるランキング上位の常連。「詩」は女子柔道選手、阿部詩さんが18年と19年の世界選手権で優勝した影響もあり、順位を昨年19年の20位から一気に3位に引き上げた。「紬」や「澪」も含めて1字名は、たとえ画数が多くても視覚的なバランスを取りやすい特徴がある。

東日本大震災以来? 「結」が付く名前で脱コロナ祈願

「結」の字が多く使われているのも今年の顕著な傾向。トップテンに4位「結菜」、5位「結愛」、7位「結月」、10位「結衣」と4つも入り、過去最多タイとなった。これまで「結」の付く名前がトップテンに4つ入ったのは東日本大震災(2011年3月)が起きた後の12年と13年の2回だけ。「東日本大震災が起きたときと同様、新型コロナウイルスの感染拡大で不安が増しており、人同士の結び付きを大切にしたいという願いを込めたのではないか」と明治安田生命保険では見ている。

一方、男女平等、ノージェンダーの意識が広がってきたことから、名前のジェンダーレス化も進んでいる。名前の読み方の人気ランキングを見ると、「あおい」が男児の6位、女児の10位でどちらもトップテンに食い込んだ。「あおい」で多い表記は男児だと「蒼」「葵」「碧」、女児だと「葵」「葵衣」「蒼衣」。つまり、「葵」が男女両方で最も人気が高いジェンダーレスな名前の代表格ということになる。今後、男女で名前を使い分ける固定概念が徐々に崩れてゆくかもしれない。

あおい・ひなた・はる……ジェンダーレス化の波

読み方の人気ランキング11位以下を見ても、ジェンダーレス化の波がうかがえる。

「ひなた」は男児で12位、女児で25位、「はる」は男児で19位、女児で32位に食い込んだ。2字名の場合、男児なら「○男」「○雄」「○夫」「○也」「○哉」「○太」「○輔」など、女児なら「○子」「○美」「○恵」「○香」「○菜」「○花」「○穂」「○佳」などと2字目が男女の性別を表すことが多い。だが性差を表す文字が入らなければジェンダーの色合いは自然に薄まる。世相の変化を反映し、今後、1字名がさらに増える可能性もありそうだ。

女児名の読みの流行はこれまでどう変化してきたのだろうか? 表は明治安田生命保険が2000年から調査・公開を始めた女児名の人気の読み方トップテンの推移をまとめたものである。男児名の人気の読み方トップテンの推移(前回)と比べると、流行のサイクルが短く、変化がより多彩なことが分かる。女児名の方が、男児名よりも世相の変化に敏感に反応しているようだ。

あやか→ゆい→めい→みお、男児名よりも世相の変化に敏感?

首位の変遷を追いかけると、「あやか」→「ゆい」→「めい」→「みお」と推移してきた大まかな流れが読み取れる。

「あやか」は00年、02年、03年と首位に立ったが、06年からはトップテン圏外に脱落。00年代前半に一世を風靡した。「ゆい」は00年と02年を除き、トップテンにずっと顔を見せてきたおなじみの名前。11年から13年まで3年連続でトップに君臨した黄金期を中心に計7回も首位に輝いている。過去21年間で最も安定した人気を誇る名前の読み方と言っていいだろう。

「あやか」のほか、「ももか」「ひな」「はるか」も含めて00年代に人気が高かった名前の多くが10年代に入るとトップテンからほぼ姿を消し、それと入れ替わる形で「めい」など新勢力が台頭する。約10年かけて流行の歯車がグルリと回った格好だ。

今田美桜、永野芽郁…、人気女優も名前の流行のけん引役

「めい」は07年からトップテンに入り、10年、14年、19年と3回首位に輝いた。今年2位に下げたものの、依然人気が高い。18年のNHK連続テレビ小説『半分、青い。』でヒロイン役を務めた若手女優の永野芽郁(めい)さんらの活躍がけん引車になっている。

「みお」は今年20年に初めてトップに躍り出た。これはテレビドラマ「SUITS/スーツ」(18年)、「3年A組―今から皆さんは、人質です―」(19年)に出演し、映画やCMにも引っぱりだこの人気女優、今田美桜(みお)さんらの活躍が大きかったと見られる。

2音名が目立つのも最近の特徴。読みが短いほど愛称のように親しみやすいし、外国人にとっても発音しやすいので国際化時代には便利だ。「めい」「えま」などは海外でも人気が高い名前として知られる。

最後に新生女児の名前(表記)の流行がこれまでどう変遷してきたのかを見てみよう。表は1912年から2020年まで109年間の女児名人気ランキング首位をまとめたものである。

世相の変化を反映し、「千代・文子」→「和子」→「恵子」→「久美子・由美子・明美・直美」→「陽子・智子」→「愛」→「美咲」→「さくら・陽菜・葵」と推移してきた大まかな流れが読み取れる。

昭和時代は和子が黄金期、戦後は恵子や「美」の付く名前

大正時代は長寿を願う「千代」「千代子」、知的で文化的な教養を連想させる「文子」の人気が高かった。昭和時代に入ると「昭和」の「和」を使った「和子」の黄金期が20年以上続く。人との融和を尊び、家族や社会のために尽くす女性の理想像が広く浸透していたようだ。

戦後は「恵子」ブームが到来する。暗い戦乱の時代が去り、復興・平和から恵みを受けようという明るい希望を込めた名前だ。女優の岸恵子さんがヒロイン役で大ヒットした映画「君の名は」が公開されたのが1953年。ちょうどその年から「恵子」がランキングの首位に立つようになる。

60年代は「久美子」「由美子」「明美」「直美」など「美」が付く名前の隆盛期。64年に東京五輪、70年に大阪万博を開催して経済成長し、生活面でゆとりが出てきた人々の関心は精神面に豊かさを与える「美」に向かい始めた。

進む「子」離れ現象、90年代以降は植物由来の名前が流行

70年代には「陽子」「智子」、80年代には「愛」の人気が高まり、「○子」のように定番だった「子」の字が女児名から徐々に消える"子離れ"現象が起きる。この頃から、漫画・アニメや映画・ドラマの主人公、芸能人、スポーツ選手の活躍にあやかろうという傾向も強まった。

90年代の「美咲」、00年代以降の「さくら」「陽菜」「葵」はいずれも植物由来の名前。自然派志向で優しく柔らかいイメージを持ち合わせている。2017年の「結菜」「咲良」、19年の「凛」、20年の「陽葵」も同じ植物由来の流れととらえることができる。このほか東日本大震災が起きた2011年以降、「結愛」「結衣」「結菜」「結月」など「結」の字が付く名前が目立つようになった。

いかがだろうか。こうして名前の流行を探ると、世相の変化も見えてくるから興味深い。

来年以降、コロナ禍の行方や東京五輪、景気動向、世界情勢などを見据えて、新生児の名付けにどんなトレンドが登場するのか? 期待を込めながら今後の動向を見守りたい。

(編集委員 小林明)

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