前田 モズクとか鯛(たい)とか、地域の資源を使ってマーケティングをしていくところもこの本の魅力です。ビジネスパーソンにもスキル本として参考になります。今年は、地方がブームになりました。パソナグループが本社機能を淡路島に移すことを決めるなど注目を集めています。私自身が島根県浜田市という地方の出身です。この本は、町おこしをやっている友達にぜひ勧めたい。応援したくなるし、熱くなっちゃいます。地域おこしのとても良い成功例なので、日本中の人に参考にしてほしいですね

安藤 一見無駄に見えることでも、役に立つんですね。異分野の知識でも貪欲に取り入れる。これが1つのビジネスのトレンドと言えるかもしれません。『木のストロー』参考記事 がむしゃら×時代の要請 木のストローが売れた理由)は自分の知識や経験に頼らず、大きなプロジェクトを成功させた普通の女性会社員の物語です。知り合いのジャーナリストに言われて、木のストローの開発と販売をやってみたという話です。

『木のストロー』

彼女は、いろいろ困難に直面するのですが「どうしたらいいですか」と周囲に聞いてまわるんです。特別なスキルを持っていなくても、正直にコミュニケーションをするとか、教えてくださいと頭を下げることで、コラボレーションは動くんですね。そのことを著者は体を張って教えてくれています。木のストローはG20でも使用された、素晴らしい製品です。でも、それを製品化した著者には、野心とか、功名心とかは感じられない。ただ、がむしゃらです。「自分自身の成長のため」という意識もないんです。そこが胸に迫りました。

問題を発見する力で生き抜く

前田 私がこの本を手に取りたいと思ったのは、女性のプロジェクトということも大きい。これだけ半人前の女性が主人公になっているビジネス本は珍しいですね。多くの読者が親近感を覚えると思います。

『問題発見力を鍛える』

仕事始めのことを考えて、冴えた企画を立てられそうな本もご紹介しましょう。『問題発見力を鍛える』参考記事 常識が通じぬ時代 問題を解くより「問う力」を鍛える)です。『地頭力を鍛える』『メタ思考トレーニング』などベストセラーの多い著者の細谷功さんですが、彼のエッセンスがぎゅっと詰まったかたちで新書で読めます。人工知能(AI)がなんでもやってくれる時代。その時代には問題発見力が大切だということは、すでにいろいろ言われています。そこで「具体的に、どこからやったらいいのか」を教えてくれるのがこの本のいいところ。具体例がたくさん書いてあるのが魅力です。「とりあえずやってみる」のと並行して、その前提として問題発見力を学んでいただきたい。その教科書として最適の一冊です。

安藤 『The Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ)』参考記事 「頭のいい人」が愚かなミスを犯す理由 心理学で解く)は、副題に「なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか」とあります。この本の言いたいことは「知的謙虚さ」を身に付けようということです。賢さとは「好奇心」と「しなやかマインドセット」を持つことだと教えているのです。しなやかの反対は「硬直マインドセット」です。頭がいい人ほど、自分がものごとを知らなかったときに自尊心が傷つく。だから、新しいところに出て行かない。それだと、失敗もない代わりに、成功もないんです。賢い人ほど、硬直マインドセットにとらわれるから要注意です。

『The Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ)』

前田 これは自分が賢いと思っている人が読む本? それとも「賢い人は駄目だ」と思っている人におすすめですか。

安藤 自分を賢いと思うか、そうでないかにかかわらず、「自分は行き詰まっている」と思う人に読んで欲しいですね。間違えたときに、なぜ直ちに反省できないのか。なぜ、どこで間違えたかを分析して理解する行動がとれないのか。間違えるという行動を通して、成長していくコツも書かれています。

前田 賢さが、自分の世界を深掘りするだけの「たこつぼ」になると、行き詰まるのかもしれません。そこから突き抜ける発想を与えてくれるのが『BEYOND SMART LIFE 好奇心が駆動する社会』参考記事 不便や不安とともに生きる 日立×京大が示す未来)です。社会課題とは何で、どう向き合うべきかという視点で、学問の垣根を越えて、賢人たちの英知が結集した一冊です。税金、農業、ブラックホール、昆虫……。研究者が自分の研究を通して、本当は何を知りたいのかを語っています。理系の研究者であっても、突き詰めていくと「生きるとはなにか」とか「豊かさとはなにか」という根源的な問いに行きつく。最終的には、社会課題には私たちひとりひとりが向き合い、考えていかなければなりません。

本書には大事なメッセージが2つあると思います。まず、「不安や不便と生きる」こと。そして「ワクワクを大事にする」ことです。京都大学の元総長の山極寿一氏が書いている冒頭の論に感銘を受けました。もともと人間は曖昧さと矛盾を抱えた存在です。AI社会と向き合うとき、その曖昧さをどう保持するかという視点を提示しています。また、人類は「1人でも不自由しない仕組みを作り上げることが、進化だ」とはき違えたとも指摘しています。たとえ不安が生じることになったとしても、もっと人と関わることで、人間は幸福になり得る。コロナがもたらした「リモート」や「非接触」の流れが強まる中で、読書を通じて私たちも「つながり」について再考したいと思います。

安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部に所属。早大卒。
前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。
ビジネス書などの書評を紹介
注目記事
ビジネス書などの書評を紹介