感染予測の数理モデル 応用に広がり、経済影響も算出

検体を採取する医療従事者。検査能力拡充には医療機関の協力が欠かせない(成田空港)
検体を採取する医療従事者。検査能力拡充には医療機関の協力が欠かせない(成田空港)

新型コロナウイルスの感染者数を予測する「SIRモデル」と呼ばれる数理モデルが今年の春ごろから世界で注目を集めるようになりました。感染者の予測が過大だとの指摘もありますが、応用研究が進んでいます。

SIRは、感染予備軍(Susceptible)、感染者(Infected)、感染症から回復した人(Recovered)の英語の頭文字です。感染疫学の先駆者が1920年代に完成させました。感染者が予備軍と接触すると一定の確率で感染すると想定し、感染者数を予測します。回復した人は免疫を備えるために再感染はしないと考えます。回復した人の増加が、感染者の増加を上回る時点に到達すると感染者数は減り、やがて消滅します。「集団免疫」と呼ばれる現象です。

多くの専門家はSIRモデルはなお有効とみていますが、国や地域によって感染状況は大きく異なり、モデルを単純に適用すべきではないとの見方が強まっています。日本でも一時、SIRモデルを活用した感染予測がよく話題になりましたが、現実より高い水準になる傾向があり、社会の混乱を招いたとの批判が広がりました。

それでも経済活動への影響を探るうえでは有用です。経済学界では、経済活動を織り込んだ理論モデルを作り、感染者数との関係を考える研究が盛んです。SIRモデルは経済学のモデルと相性が良く、多くの経済学者が興味を持ったのです。

東京財団政策研究所の小林慶一郎研究主幹らは、人々の接触を減らす政策(行動制限)が感染者数や国内総生産(GDP)に及ぼす影響を試算しました。「30日間接触を8割減らす」「60日間接触を7割減らす」といったパターン別に影響を比べたところ、行動制限の期間が終わると短期間で感染が再拡大する傾向が見られ、この間のGDPは大きく落ち込みました。

論文では「外出自粛や休業要請といった行動制限よりも、検査の拡充による感染者の洗い出し、接触者の追跡、陽性者の療養・待機で感染リスクを減らす政策のほうが望ましい」と提言しています。ノーベル経済学賞を受賞したポール・ローマー氏らも同様な見解です。

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小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹「現実の社会