Men's Fashion

「007」のキザとダリの前衛 タキシードの神髄対決

ダンディズム おくのほそ道

服飾評論家 出石尚三

2020.12.21

19世紀の英国からフランスへと広がったダンディズムとは、表面的なおしゃれとは異なる、洗練された身だしなみや教養、生活様式へのこだわりを表します。服飾評論家、出石尚三氏が、著名人の奥深いダンディズムについて考察します。




クリスマスにニューイヤー。例年であれば華やかなパーティーのお誘いがあり、1年のうちで最もドレスアップを楽しめる季節となりました。ですが、今年は新型コロナのせいで様相が一変してしまいました。お気に入りのタキシードをワードローブから取り出す機会もなく、さみしく感じておられる方もいるのではないでしょうか。

昔から洒落(しゃれ)者たちは厳格な「型」のある礼服を自分流に着崩すことで、存分に個性を表現してきました。場と相手に対する敬意を払いながら、どう自分らしく見せるか。そこがおしゃれの腕の見せ所でもあるわけです。

タキシードの「名手」に学ぶ着こなし

そんなタキシードを独特のファッションセンスで、まさに我が物としていた2人の男性のお話をしましょう。映画「007」のジェームズ・ボンドと鬼才サルバドール・ダリです。彼らの着こなしを例に引きながら、タキシードの本質に触れてみたいと思います。

「007」原作者のイアン・フレミング氏がたいへんな気障(きざ)な男であったと以前、この連載で申し上げました。イアン・フレミング氏=ボンドそのもの。ゆえにボンドの着こなしにも、その気障男ぶりが発揮されています。映画作品の中では、初代ボンドのショーン・コネリーのイメージが最も強いのではないでしょうか。

イアン・フレミング氏は大のカジノ好きで知られ、「007」にはよくカジノの場面が出てきます。「紳士の社交場」であるカジノで必要不可欠なのがディナー・ジャケット、アメリカでいうタキシードであります。

「(ボンドは)厚手の絹の礼装用シャツの上に、シングルのディナー・ジャケットを着こんだ。」(イアン・フレミング著『007/カジノ・ロワイヤル』、井上一夫訳 創元推理文庫)

英国紳士はふつう、礼装用に「絹のシャツ」は着ません。必ずリネンのシャツを合わせます。ですので、このシルクがボンドの気障たるゆえんなのです。