ダリはパリでスキャパレリと出会って意気投合。彼女に様々な知恵を授けました。スキャパレリはシューハットと相前後して「ショッキング・ピンク」を発表しました。この目の覚めるような鮮やかな色使いを着想したのにも、ダリの影響があったといいます。

ダリのディナー・ジャケットは紫色のベルベット

日本人女性にもダリに刺激を受けた人がいます。作詞家の安井かずみです。60年代の一時期にパリで一人暮らしを楽しんでいたある日、ダリからホームパーティーに誘われたそうです。

1970年、ファッション界のイベントでパリのホテルを訪れたサルバドール・ダリ(左)=AP

彼女は当時からサンローランのオートクチュールのドレスを着ていたくらいの、とびきりのおしゃれさんでした。そんな彼女でさえ、ダリのパーティーだというので服装に迷いに迷い、結局、紫色の、ベルベットのディナー・ジャケットを選びました。

ダリがパリの住まいとしていたホテル・ムーリスの部屋を訪ねると、ダリ本人がドアを開けました。そして、2人は絶句します。

「一瞬、私たち(彼のダリと私である!)は見つめ合っていた。それはダリもまた、私とまったく同じヴィオレのベルベットのディナー・ジャケットを着ていたからである。偉大なる画家と、その少々昔漫画家の卵だった東洋娘の私は、期せずして、同じ色、同じ光沢を放つそのヴィオレを認めた。」(安井かずみ著『安井かずみの旅の手帖』 PHP研究所)

まあ、ダリとしては、それをシュルレアリスム風のディナー・ジャケットだと考えていたのでしょう。紫は確かに前衛的表現にぴったりの色です。ところが部屋のドアを開けてみると、若い日本人女性が自分と同じ服装をしていたわけです。相まみえた時のダリの様子はどうだったのか。

開口一番、「これは、運命だ!」と言ったそうです。

帽子や靴など目を引く「小道具」で装ったサルバドール・ダリ(1968年、スペインの自宅で)

タキシードは本来、19世紀末の部屋着ですから、礼服とはいえある程度の自由が許されています。なにも黒無地ばかりがタキシードではありません。ただし上着が前衛的になればなるほど、小道具はクラシックに徹するべきです。上着も前衛、シャツも前衛というのは、かえって野暮となります。対極のものが併存することによって絶妙の構成が成立する事例は、ファッションには事欠きません。

それはちょうど、伝統的技術に裏打ちされた前衛絵画の完璧さに相通じるものといえましょう。

出石尚三
服飾評論家。1944年高松市生まれ。19歳の時に業界紙編集長と出会ったことをきっかけに服飾評論家の元で働き、ファッション記事を書き始める。23歳で独立。著書に「完本ブルー・ジーンズ」(新潮社)「ロレックスの秘密」(講談社)「男はなぜネクタイを結ぶのか」(新潮社)「フィリップ・マーロウのダンディズム」(集英社)などがある。

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