男の子の名前、1位は「蒼」 1字名が人気の理由は?編集委員 小林明

2020年(令和2年)に生まれた赤ちゃんの名前人気ランキング(明治安田生命保険調べ)が発表された。名前は世相を映し出す鏡。ランキングからどんな流行や社会心理の変化が読み取れるのだろうか。男児編、女児編に分けて分析してみよう。まずは男児編から。

「蒼」に人気集中、コロナ禍払拭に向けて明るさや希望を求める

新生男児の人気名のトップテンは首位から順に「蒼(あおい・そう・あお・そら)」「樹(いつき・たつき)」「蓮(れん)」「陽翔(はると・ひなと・ひなた)」「律(りつ)」「朝陽(あさひ)」「湊(みなと)」「新(あらた・しん)」「大和(やまと)」「大翔(ひろと・たいが・はると・やまと・たいし)」となった。

「蒼」が首位になるのは記録のある1912年(明治45年・大正1年)以来、過去109年間で初めて。2017年に5位に浮上してトップテンに入ってから、10位(18年)、4位(19年)と推移し、人気を高めてきた。「蒼」には晴れ晴れとした明るいイメージがあり、「新型コロナウイルス感染拡大による暗いムードを払拭したいという心理が働いたのではないか」と明治安田生命保険では見ている。また「蒼」は人気の高い名前の読み「そうた」の「そう」の部分に使いやすいことから、「蒼太」「蒼大」などの名前も人気が高まっているようだ。

2位に入ったのが「樹」と「蓮」。「樹」は16年に6位、18、19年に7位と相次いでトップテン入り。それ以前はランキング上位にあまり登場してこなかった成長株だ。一方、18、19年に2年連続で首位を奪取した「蓮」は今年2位とやや後退したものの、依然高い人気を誇っている。

4位の「陽翔」は17年に首位に立ったこともあるトップテンの常連。人気の高い名前の読み「はると」に最もよく使われる漢字にもなっている。6位の「朝陽」と同様、太陽のような明るく力強いイメージがあり、これもコロナ禍の暗い世相を脱却したい社会心理の表れと言えそうだ。

5位の「律」も人気が上昇している名前の一つ。昨年に4位に浮上し、トップテン内を維持した。これは17年にJリーグからオランダ1部リーグ(FCフローニンゲン、19年からPSVアイントホーフェン)に移籍し、20年にはドイツ・ブンデスリーガ(アルミニア・ビーレフェルト)に移籍したプロサッカー選手、堂安律さんの活躍が人気に一役買っているようだ。

1字名はトップテンで6つ、1950年代以来の流行か?

トップテンの顔ぶれを眺めると、改めて目につくのが1字名の躍進。「蒼」「樹」「蓮」「律」「湊」「新」の6つが上位10位に食い込んだ。トップテン中で6つも占めるのは、1979年以降で2016年、19年、20年の3回しかない。1字名が増えているのはここ数年の顕著な傾向と言ってよい。

実は1950年代辺りまで、概して1字名が多い傾向があり、トップテンのすべてが1字名という年が続くことも珍しくなかった。60年代以降、1字名は徐々に減少してゆく。

1字名が復活してきた背景については、(1)2字名が優勢だった時代が長く続いたので、「新しさ」を求めて1字名が好まれている(2)1字名は「そう」「あお」「そら」「れん」「りつ」「しん」など短い音節の読みが多いため、愛称のような感覚で親しみを覚えやすい(3)短い音節の名前は外国人にとっても発音しやすく、国際化時代に対応しやすい(4)男児、女児どちらにも使える名前の人気が高まっている――などの理由が考えられる。

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戦争・復興・高度成長…、名前から読み取れる世相