哀川翔と手越祐也の私物も ジョブカン「手弁当CM」売れるCMキャラクター探偵団

日経クロストレンド

「ジョブカン」のイメージキャラクターを務める哀川翔と手越祐也。共演は初めての2人だが「ジョブカンポーズ」の息もぴったり
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哀川翔と手越祐也が上司と部下を演じる、勤怠管理クラウドソフト「ジョブカン」のCMは、掲載メディアをWebやタクシー車内を中心に据え、認知に加え拡散にも軸足を置く戦略を選んだ。元テレビマンの制作陣の狙いとは。そして2人を起用した理由とは何なのか。

元テレビマンが手がける「手弁当CM」

CMの冒頭で「ジョブカン!」の声に合わせて体をのけぞる「ジョブカンポーズ」を決める哀川翔と手越祐也。場面は社内に移り、決裁書類に追われる人事部長の哀川を「うわ、ダッサ!」とばかにしながら見ている部下の手越。入社書類、マイナンバー申請、雇用保険の手続き、社員の結婚、依願退職に年末調整……。次々に舞い込む案件にいよいよ追い込まれた哀川は、「テゴちゃん、助けて」と、助けを求める。そこで手越は「労務管理ならジョブカンっしょ!しかもゼロ円から」と、管理システムの「ジョブカン」ならさまざまな手続きが一括管理できることをアピール。チャラいながらもやり手の部下が差し伸べた救いの手で、難を逃れた哀川部長なのであった。

リリースから10年がたつジョブカンは、勤怠管理、経費精算ワークフロー、労務管理など多岐にわたる複雑なバックオフィスの業務が一括管理できるシステムで10万社以上が利用している。「他社では外部サービスとの連携や複数のIDが必要なことも多い。ワンストップで解決できるのは大きな競争力」と、ジョブカンを運営するDonuts(ドーナツ、東京・渋谷)の代表取締役でプロデューサーでもある西村啓成氏は語る。

その一方でアシスタントプロデューサーの青木良憲氏は、「今後、他社も(ワンストップシステムに)追随してくるだろう。どう差別化するかが命題。CMも他社とは違う見せ方をする必要がある」と、競合の多いHR(ヒューマンリソース)システム業界で同社が抱える課題を打ち明ける。

そこでジョブカンらしさを打ち出すべく、社内のクリエイティブチームでCMを制作することにした。広告代理店を通さず、撮影場所も自社オフィスという「手弁当」っぷり。CM内で手越が出社に使う愛車のランボルギーニや哀川の背景にあるカブトムシパネルは、実際に本人の私物を借りている。

出演の哀川は自宅からカブトムシパネル(左後方)を持参して協力
手越は実際の愛車・ランボルギーニで登場

「通常のCMに比べて破格の低コストに抑えられた。1日で5パターンのCMを撮り終えてスチール撮影まで完了した。スケジュール的にも非常にコスパが良かった」と、西村氏は振り返る。

実は青木氏とディレクターの井上尚也氏は、もともと大手テレビ局で音楽番組やバラエティー番組を作っていたバリバリのテレビマンだった。今回のCMで、井上氏は脚本、監督、編集も担っている。

「テレビ育ちならではの分かりやすさを重視した。さらにCMであっても面白くなければだめだという思いも強い」と井上氏が話すように、格好良さやおしゃれさは排除して、システムの具体的な活用シーンを明確に描き、同時に手越のお決まりポーズや愛車の前で社名でもあるドーナツを食べるなどテレビらしい遊び心もちりばめた。

ちなみにオフィスに設置された小道具は、ドラマ『半沢直樹』(TBS系)の美術スタッフが担当している。「細部に魂が宿るという考え方もテレビで身に付いたもの」と井上氏。

幅広い認知と拡散力が起用の決め手

テレビらしさを追求するジョブカンのCMだが、ライブ配信サービス「ミクチャ」やVRゲームなどを運営するDonutsは、「Change the Game」というコンセプトを掲げ、ゲームとWebサービスを軸に時流を変えるサービスで世界にインパクトを与えたいという思いがある。そこでCMはWeb中心で展開し、ユーザー層にリーチしやすいタクシーの車内広告も加えた。

「認知を広げるには圧倒的にテレビが強い。しかし、これからはただ流すだけでなく、どれだけ拡散できるかが重要になる時代」(西村氏)

今回のCMでは、撮影の合間に手越が自身のインスタグラムに現場の様子をアップした。するとあっという間に9万いいね! が付き、投稿の20分後にはニュースサイトに掲載された。さらにCM撮影と並行してYouTube用のメイキング動画も撮影し、CMと同時に公開してこちらも大きな反響を得た。この拡散力について西村氏は「テレビだけが答えではないのではないか、と考えている」と言い切る。

哀川も手越も芸歴は長いが共演は初めて。両者ともテレビマン時代の青木氏や井上氏と仕事をした経験があり、CM撮影もスムーズに進み、その場でアドリブが採用されることもあったという。青木氏は哀川を起用した理由を、「ユーザー層とファン層が重なっており、事前調査で全世代からの認知が非常に高く、圧倒的な知名度が決め手になった。また、声が特徴的なので車内広告でも注意を払ってもらいやすい」と説明する。

次々に舞い込む案件から哀川部長を救ったのは、チャラくてもデキる部下の手越だった

手越については「『(世界の果てまで)イッテQ!』などのバラエティー番組でお茶の間の知名度は抜群。(ジャニーズ)事務所から退所直後で、まだ他から声がかからないタイミングで話題性を取りに行った。独立後初のCMということで、もくろみ通り非常に注目を集めた。彼自身の拡散力の高さも決め手になった」と、起用理由を明かした。

正解が1つではなくなった広告の世界において、西村氏が重視するのはキャラクターのファンを喜ばせることだという。11月にはアドトラックを走らせて、ファンの間で大きな反響があったという。「テレビで流さなくてもファンは自発的に探して見てくれるし、拡散もしてくれる。ファンが喜ぶものを作れば媒介となって、ひいてはユーザーの裾野拡大につながる」とみている。

(ライター 北川聖恵)

[日経クロストレンド 2020年12月11日の記事を再構成]

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