
年を取れば人は老化する。だがそうした変化が、別の原因でも引き起こされることはあまり知られていない。宇宙旅行だ。
このたび、学術誌「Cell」とその姉妹誌である「Cell Reports」「iScience」「Cell Systems」「Patterns」の5誌が連携し、「宇宙飛行の生物学」というテーマの下、一挙に29編の論文を2020年11月25日付で発表した。
研究に参加した科学者は総勢200人以上。宇宙滞在の経験者全員の1割以上にあたる56人の宇宙飛行士を対象に、宇宙滞在がもたらす生物学的な影響を調査した。結果、宇宙での暮らしが、人間や動物の遺伝子、ミトコンドリアの機能、細胞内の化学的バランスを乱し、健康に様々な影響を引き起こすことなどが報告された。

「宇宙は地球上とはまったく異なる極限の環境なので、その影響は全身に及びます」と、複数の研究に参加した米コロラド州立大学の放射線科医スーザン・ベイリー氏は話す。
宇宙滞在が健康に及ぼす影響はいくつかの点で、がんや骨粗しょう症といった加齢に関連する疾患と似ている。このことは、火星の有人探査など長期にわたるミッションでは大きな問題となる。一方で宇宙という独特の環境は、老化の生理学を研究する絶好の機会を提供してくれる。
宇宙空間では、心臓、血管、骨、筋肉が、自然な老化の10倍以上の速さで衰えると推定されている。つまり、老化のプロセスを研究したい科学者は、研究対象が地球上で自然に老いるのを待たなくても、国際宇宙ステーション(ISS)で実験すれば、健康への影響を早回しで調べることができるのだ。