日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/12/26

川沿いで待ち構える捕食者

M. dienbienphuenseは水を出ると、さまざまなリスクにさらされる。つまり、腹を空かせた陸生動物たちだ。よく遭遇する捕食者はカエル、トカゲ、ヘビで、ホンジャンラシルプ氏はハサミムシやハシリグモの犠牲になる瞬間も目にした。

ハシリグモは川沿いでエビがやって来るのをじっと待っている。ホンジャンラシルプ氏はこの戦略を回転ずしに例える。

毎年雨期になると、このエビの集団が食物網に大量のタンパク質をもたらしている可能性が高い。ホンジャンラシルプ氏はさらに研究を続けたいと考えている。エビが移動することで、「水圏生態系から陸上生態系にいくらかエネルギーが移動します」

オーストラリア西オーストラリア州生物多様性、自然保護、観光部門の淡水生態学者ピーター・ノバク氏は、エビの行進が繁殖のような節目となる出来事と関連していないという結論に興味をそそられたと述べている。

「(この発見は)何のために上流に移動するのかという興味深い疑問を投げかけています」。ノバク氏は今回の研究に参加していない。

急流のすぐ横を行進するエビ。毎年8~10月にラムドゥアンで見られる(PHOTOGRAPH BY WATCHARAPONG HONGJAMRASSILP)

M. dienbienphuenseの近縁種の中には、河口で生まれた後、産卵のため上流に移動するものがいる。M. dienbienphuenseも同様の回遊をするかどうかは確認されていないが、生活環の一部として、川の異なる部分を行き来しているのではないかとノバク氏は推測している。

M. dienbienphuenseは絶滅の危機にひんしているわけではないが、観光がマイナスの影響を及ぼす可能性はあるとホンジャンラシルプ氏は警告している。人々が懐中電灯で照らすと、エビたちが水に戻る合図と勘違いし、その結果、あっという間に下流に流される恐れがあるためだ。

ホンジャンラシルプ氏によれば、ウボンラーチャターニー県がユニークなエコツーリズム体験としてPRしていることもあり、行進するエビはこの数十年、年間10万人以上の観光客を引き付けているという。

水に戻るまでに20メートル近く歩くエビもいる(PHOTOGRAPH BY WATCHARAPONG HONGJAMRASSILP)

行進できる環境の保護を

ホンジャンラシルプ氏は今回の研究をきっかけに、生息数が減少しているほかの淡水甲殻類の保護が強化されることを願っている。

例えば、ダムがエビの動きを妨げることもある。オーストラリアやアフリカでは実際、M. dienbienphuenseの近縁種の個体群がダムによって分断され、移動できなくなっている。今回の研究が「エビ専用はしご」をつくるきっかけとなり、希少な仲間たちが救われたらうれしいとホンジャンラシルプ氏は述べている。

「自然はすべての単位が重要です。それを理解し、保護のために動かなければなりません」

(文 JAKE BUEHLER、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年12月3日付]

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