日経メディカル

国内にも興味深い報告がある。3月23日、関西から那覇への便に搭乗していた乗客が感染していたことが分かり、その便の乗客141人のうち122人に連絡が取れ、合計14人が感染していたことが分かったのだ。関西・那覇の国内線では有症状者がマスクをしておらず搭乗中激しい咳をしていたと報告されている。激しい咳き込みのある患者がマスクなしで近くに存在する環境では、いかに換気が良くても、2時間という短時間でクラスターとなり得ることを示したこの調査は貴重だ。

以上から、機内では、マスクなしの咳嗽(がいそう)は感染リスクを高めると考えられそうだ。

では、冒頭で紹介した当院の患者の例はどうだろう。少なくとも(恐らく感染者を含めて)女性の近くに座っていた全員が始終マスクをしており、飲食をせず、黙っていたのである。それでも近くの席に座っていたというだけで濃厚接触とみなされ、PCRは陰性であったものの2週間の自粛を強いられている。

ここで濃厚接触者の定義を再確認したい。

濃厚接触者の定義(国立感染症研究所による「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要項」(2020年5月29日版)に準拠)[注4]

「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」(「無症状病原体保有者」を含む。以下同じ。)の感染可能期間に接触した者のうち、次の範囲に該当する者である。

・患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
・適切な感染防護無しに患者(確定例)を診察、看護もしくは介護していた者
・患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者
・その他: 手で触れることのできる距離(目安として1メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と15分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)。

[注4]https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200529.pdf

これによれば、適切な感染防護をしない状態で、15分以上の接触があった場合が濃厚接触者ということになるわけだが、換気が十分な場所であればどうなるのだろうか。日経メディカル編集部に頼んで、厚生労働省に確認してもらった。その答えは、一言でいうと、「適切な感染防護をしていれば、感染者に接しても濃厚接触者とはならない」。日々、医療機関で実施していることだ。その他は以下にまとめる。

COVID-19濃厚接触者の定義について(厚労省の担当官の見解)

・リスクとは有無で判断するものではなく、高低(グラデーション)であり、どこかで線引きすることはできない。そのため、状況をよくヒアリングした上で、現場(保健所)が、濃厚接触者とするか否かを判断することとなっている。15分という線引きは再考すべきかもしれない。

・患者の症状にもよるが、マスクしていて換気も十分であれば、航空機内に患者が乗り合わせていても、濃厚接触ではないとの判断はあり得る。また、お茶を飲むためにマスクを外す云々は、リスクを高める要因としてあまり考えなくてよいだろう。

・患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者とあるが、この「長時間の接触」とは同居に匹敵するような時間を想定しており、1~2時間程度のフライトは実は想定外だった。

・航空機上でのクラスター発生は多くなく、航空機の換気性能は認めている。ただし、換気の良しあしは機種にもよるので一概には言えない。

・必要以上の行動制限をかけたいわけではない。

・濃厚接触者の定義は世界保健機関(WHO)によるものに準拠しており、WHOが定義を変更しない限り、国内の定義を変更する予定はない。

現在、公共の交通機関は3密を回避するために様々な努力をしている。「密閉」回避のための換気もその一つだろう。濃厚接触者か否かを決める保健所は、換気の有無も十分考慮するべきだろう。国が言う「事例ごとの適切な判断」──その責任を担う覚悟を、保健所の担当官にはぜひ持ってほしい。

また航空会社もさらなる努力として、搭乗中のサービスを見直してもいいのではないだろうか。

個人的な話になるが少し前に講演のため、飛行機である都市に出張した。搭乗中一度もマスクを外さなかったが紙パックのジュースが配られた。心の中で「みなさん、飲むのなら降りてからにしてください」と叫んだが、そのような祈りが届くはずもない。配られれば飲みたくなるもので、多くの乗客がストローでそのジュースを飲み始めた。僕のように直ちに鞄に入れることの方が失礼なのかもしれない。

マスクを外す行為を促進するのだから、たかだか1時間程度のフライトであれば飲み物を配らなくてもいいのではないか。実際、別の航空会社(ANA)では無料のドリンクサービスや機内誌のシートごとの配布をやめているようだ。

[日経メディカル2020年12月4日付記事を再構成]※情報は掲載当時のものです。

谷口 恭さん
太融寺町谷口医院院長。1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。
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