錯覚トリックでメスにアピール 錯視を使う動物のワザ

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/12/27
ナショナルジオグラフィック日本版

オーストラリアに生息するオオニワシドリのオスは、手の込んだ劇場を作って自分の体をより大きく見せ、訪れたメスに対してアピールしているようだ(GRAPHIC BY TAYLOR MAGGIACOMO)

目の錯覚が起きるのは、私たちが現実をそのまま受け止めるのではなく、積極的に解釈しているからだ。目が光を正確にとらえていても、時に脳が誤ってしまうこともある。知覚は必ずしも現実と一致しているとは限らない。

科学者は何十年もの間、錯覚を利用して人間の視覚の根底にある認知や心理の過程を探ってきた。そして最近では、人間以外の動物も、様々な種類の錯視(視覚における錯覚)を体験したり作ったりできるという証拠が得られている。

人間や動物の脳のどの部分で錯視が起きるのかを理解すれば、人間だけでなく、動物たちが世界をどう知覚しているのかを理解する助けになるだろう。

2020年8月24日付で学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された論文で、米エール大学の研究者は、ショウジョウバエも人間と同じように、静止している絵を見て動いていると錯覚してしまうことを示した。

例えば、神経科学者や心理学者の間ではよく知られている「蛇の回転」という静止画がある。視線を動かすと、止まっているはずの蛇が動いているように見える絵だ。この論文の研究者は、絵を見ているショウジョウバエの脳で視覚を処理するニューロンを追跡し、操作した。すると、動きを検出する細胞にはいくつかのタイプがあって、それぞれの働きのわずかな不均衡が錯視を起こしていることも示された。

エール大学の分子細胞発生生物学教授で論文の最終著者であるデイモン・クラーク氏によると、人間や他の動物に錯視が起きる時、同じ神経メカニズムが働いている可能性があるという。

「ハエと人間は、5億年前に生きていた共通の祖先を最後に別々の道を歩み始めましたが、動きを知覚するために同様の戦略を進化させました。その戦略を理解すれば、人間の視覚系についての理解も深まるでしょう」

飼育動物の行動を改善

人間と同じように錯視を体験する動物の例は数多く存在する。なかには錯視を作り出し、相手をだます能力を持つ動物もいる。

ショウジョウバエや人間だけではなく、サルやネコ、魚も、動いていないものを動いていると錯覚してしまうことが研究で示されている。

ある研究者は、動物園にいる動物たちの生活の質を向上させるために錯視を利用する研究を行っている。19年、イタリアで飼育されているライオンのメスに「蛇の回転」の絵を見せたところ、3頭のうち2頭が反応し、それがまるで動く獲物であるかのように、かみついたり、引きずり回したりした。また、積極的で社会的な行動が増え、型にはまった行動が減ったという。

研究者らは、他の飼育動物でもこれを試し、ストレスの軽減や行動の改善につながるかどうか確かめたいとしている。

視覚トリックでメスにアピール

オーストラリアに生息するオオニワシドリ(大庭師鳥)は、毎年春になると、メスの気を引くために「あずまや」付きの庭園を造り、管理する。小枝を組んでトンネルの形をしたあずまやの一方には、骨や貝殻、小石を並べて作られた見事な庭園が広がっている。

あずまやを訪れたメスは庭のないほうから中に入り、庭の側に立ったオスは、飾り物を一つひとつメスに披露する。メスは、いくつかのあずまやを訪れ、一番気に入った庭の主を交尾相手に選ぶ。

ナショジオメルマガ
注目記事
次のページ
トカゲをだます
ナショジオメルマガ