予測も狂ったコロナ初年 デジタル機器に何が起きた?
戸田覚の最新デジタル機器レビュー
2020年は、デジタル、IT(情報技術)業界にとって特別な年となった。新型コロナウイルスの感染拡大による影響は甚大だが、ITの普及によってそのダメージを最小限に抑えた企業も少なくない。逆に言うなら、徐々に進むはずだったテレワークの導入が一気に加速し、ビジネススタイルに大きな変革がもたらされたのだ。
今回は激動だった1年間のデジタル機器やITのトレンドを振り返っていく。僕自身は、30年以上この業界をウオッチしているが、最も大きな動きのあった1年だと感じている。
テレワークが一気に進化
今さら言うまでもないが、コロナ禍の影響でテレワークが一気に普及した。正確に言うなら在宅勤務が普及したわけで、モバイルワークの頻度は減っている。今後はこれがニューノーマル(新常態)となる。その割合は変化するとしても、今後の働き方のスタンダードになるのは誰もが認めるところだろう。
いきなり在宅勤務をせざるを得なくなったことによって、パソコンが売れに売れた。本来なら、今年はパソコンが「売れない」年だった。Windows 7のサポート終了の関係で、19年はパソコンがよく売れた。その反動と消費増税の影響で、今年は「売れない」と予測されていた。この手の読みは、これまでまず外れたことがなかった。
ところが、いきなり在宅勤務用のパソコンが大量に求められることになった。一部では品不足状態もみられた。
米インテルのCPU(中央演算処理装置)の供給が不足する一方で、米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)製の「Ryzen(ライゼン)」が注目を集めたのも見逃せない。価格の割に性能が高いRyzenは大いに人気を集め、実はこちらも品薄になった。さらに、米Apple(アップル)が自社で開発した「M1」チップを搭載したMacが11月に登場して、話題となった。
今年はCPUの格付けが大きく変わる先駆けの年となりそうだ。従来のように「Core i7」「Core i5」といったCPUの「格」によってパソコンの価格が位置づけられる販売方法が、変わることになるかもしれない。
旺盛なニーズでモノが足りない
不足したのはパソコンだけではない。ビデオ会議に使うウェブカメラやヘッドセットも春ごろには品薄になった。また、ノートパソコンと組み合わせて使う外付けディスプレーもよく売れた。自宅で作業するための机やイスのニーズも増えた。
ソフトウエアの売れ筋も変わった。「Zoom(ズーム)」や「Teams(チームズ)」などのビデオ会議ソフトを使う人が急速に増えた。電子メールを代替するビジネスチャットも当たり前のように使われはじめた。
これらのソフトを使うと仕事の効率が上がることは、以前からわかっていた。僕もさんざん記事に書いてきたが、普及のスピードは遅々としたものだった。それがほんの数カ月で広く使われるようになったのは、驚くばかり。冒頭でも記したが、これらのソフトによって在宅勤務が可能になり、多くの人が新型コロナウイルスの感染リスクを抑えられたのは、現代の進化したITの成果と言えるだろう。
がっかりだった5G
今年から本格スタートした高速通信規格「5G」は、僕も利用している。その素晴らしい通信速度には感激する。だが、あまりにもエリアが狭いことはご承知の通り。普及にはまだ2~3年はかかるだろう。落胆した人が多かったのは、CMなどであまりにあおりすぎたからだ。また、東京オリンピックの会場で多くの人が高速な通信環境を体験できるはずだったが、それがかなわなかった。これも5Gの普及にとってはマイナスだった。
実は5Gはスマートフォンよりパソコンのほうがメリットを享受しやすい。ビジネスユースでクラウドや仮想デスクトップ環境を利用する際には、高速な5Gが非常に有効だからだ。数年後には、5Gの通信モジュールを内蔵したパソコンが当たり前になり、ニューノーマルの働き方がさらに進化するだろう。
なお、通信料金の引き下げは来年から本格化しそうだが、5Gの容量無制限サービスをはやく値下げしてほしい。
アップルが注目を集める
スマホの売れ行きが芳しくない。これは、予想されていたコモディティー(汎用品)化がいよいよ顕著になってきたということだろう。「普通に買って長く使う」という当たり前の製品になってきたのだ。だから、今年もスマホはあまり売れなかった。
iPhoneの新製品「iPhone 12シリーズ」が話題になったといっても、数年前と比べれば落ちついたものだった。
ハードウエアの進化も止まってきている。Androidスマホでは、ミッドレンジハイのチップセット「Snapdragon 700」シリーズを搭載する製品が増えている。ハイエンドよりもスタンダードモデルが人気になっているのだ。
そうした中でも、デジタル機器の分野ではアップルの強さが目立った1年だった。iPhoneは普通によく売れたし、11月に発売されたM1チップ搭載Macはパソコン市場に変革を起こしそうだ。新型のApple WatchやiPadも好調に売れており、こちらは他社を圧倒している。
メーカーとして考えれば、アップルが例年以上に注目を集めたと言っていいだろう。
サブスクリプション化の先駆けに
今年は新型コロナウイルスの影響でビデオ配信サービスが大いにはやった。「Netflix(ネットフリックス)」や「Amazon Prime Video(Amazonプライム・ビデオ)」などを視聴する人が激増した。
ここで注目したいのが、サブスクリプション(継続課金)のビジネスモデルだ。アプリや各種コンテンツなどは、今後サブスクリプション化が一気に進むだろう。今年はその先駆けの1年となった。
企業としては、目玉機能を持った新製品を作らなくても、一定の売り上げが確保できるのが大きい。また、いつまでも古いバージョンをサポートしなくて済む。ユーザーとしては、金額を気にすることなくアプリを使ったり、コンテンツを楽しめたりするメリットがある。一つ一つの契約は安価なサブスクリプションだが、あれもこれもと契約すると、毎月の出費はかなり増えてしまう。
そこで、アップルは自社のサブスクリプションサービスをまとめた、統合型サブスクリプションの「Apple One(アップルワン)」を10月から開始した。音楽や動画配信やゲームといったサービスをひとまとめにして割安に販売する。今後はこうした流れが加速し、各社が毎月払いでユーザーの奪い合いを始めるはずだ。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は150点以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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