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苦学・失恋…受賞で見返したい 「裸婦の画家」の原点

名古屋画廊 中山真一

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NIKKEI STYLE

 才能や感性を鋭く問われる画家らアーティストは、若き日をどう過ごしたのか。ひとつの作品を手がかりにその歩みをたどる連載「青春のギャラリー」。ガイド役は名古屋画廊社長の中山真一さん(62)です。中山さんは「いつの世もアーティストが閉塞感を突破していく。自分を信じて先人を乗り越えていく生き方は、どんな若者にも道しるべを与えてくれるのではないか」と語ります。(前回は「見るな・見せるな・聞くな 童心の画家、師の教え貫く」

褐色調の暗い画面になにかが蠢(うごめ)いている。ダチョウのような大きな鳥たちの交歓風景か。少女がひとり優雅にその一頭に乗ってこちらを見つめている。ただ、画面全体はそれほど優雅ではない。絵筆で描くというよりも、自分の鬱屈した心情をもってこれでもかとキャンバスに体あたりをくりかえし、油絵の具の重なりが分厚い壁をきずいて固まったか。堅牢(けんろう)となった絵肌は、若さや必死さゆえのカオスをともない、有無をいわせずせまってくる。狂おしいまでの蠢きがこちらの胸をゆさぶってやまない。

バイトで資金、1浪中に上京

この作品《動物祭トリA》(1959年)の作者である佐々木豊(ささき・ゆたか)は、1935年(昭和10年)に名古屋市で生まれ、戦時下の疎開生活や中学校時代の新聞配達など子どもながらに苦労を重ねた。中学で美術教師をしていた洋画家の三尾公三に出会い、そのよき指導もあって画才をおおいに発揮する。のち愛知県立旭丘高校の美術科2期生として画家志望をかためた。

だが、東京芸術大学油画科の現役合格に失敗し、引き続きアルバイトにも励む。名古屋でパチンコ組立工として働いて資金をため、秋に上京。阿佐ヶ谷洋画研究所(東京・杉並、現在の阿佐ヶ谷美術専門学校)に学び、入試にそなえる。1浪後に首尾よく合格、というかおそらくは上位での合格。しかし本人にしてみれば、このとき不合格だったら生活資金もつきて人生どうなったか、と喜びより安堵が先にたった。

経済白書が「もはや戦後ではない」とうたった時代。あいかわらずのアルバイト生活ながら、芸大の開放的な雰囲気のなか画家の卵としておおいに人生修業をつんでいく。描くのに多少なりとも広いスペースをもとめ、何度も下宿をかわった。最後は愛知県人会学生寮。6畳間の2人部屋であった。佐々木が部屋をおおきくとって夜中までラジオをつけて制作するので、同室の東大生はついにはノイローゼになって留年してしまう。

大学4年生となった春、佐々木は国画会(こくがかい)展(大正期に発足した公募団体展)で初入選を果たした。だが、それくらいでは満足できない。受賞をしなければ。権威ある公募展はほかにもあろう。にしても、国が主導してきた日展はまったく肌にあわない。全体におとなしい作柄の春陽会など他の在野系の展覧会もまたどこか物足りない。そんななか、かの梅原龍三郎が健在の国画会は、活気があってやはり自分にむいている。その最高賞である国画賞をめざそう。

初入選の会場で佐々木はそう思うこととなり、会期中その年の受賞作を中心に連日じっくりと観察した。受賞作の特徴として気がついたのは、半具象で工芸的なマチエール(絵肌)、色彩が叙情的であるということなど。1学年上の島田章三が在学中に国画賞を受賞していたのも、やはりこの傾向にそっていたからであろう。自分の初入選作はやや抽象性がまさっていた。人生一度だけ、受賞という世俗的な栄達をめざそう。ついでに、こうむったばかりの失恋の痛手からなんとしても立ちあがり、相手を見返してやる。出品時期が重なる卒業制作など、ただの学内展にすぎないので無視しよう。そんなものより、世の中にひろく通用する国画賞だ。

パッションというよりヤマッけ

初入選の喜びにひたることもなく、すぐさまそのための制作に入る。出品制限は5点。ならば5点出そう。キャンバスは高価で手が出ず、巻かれたままの安価な麻布を買って手づくりの木枠に自分ではった。「傾向と対策」にそった必死の制作が丸1年つづく。途中、一晩で描いた卒業制作は40人あまりの中で16位。まったく気にしない。

とにかく国画賞あるのみ。芸大を卒業した春、入選発表を見に行くと本作品《動物祭トリA》含め2点がみごと国画賞を受賞した。満23歳の若さだった。

「結局、パッション(情熱)だね。国展(国画会展)は5点まで出品オッケーといっても5点出す人間はまずいない。5点も出したことで、審査員たちもパッションを買ってくれたんだろう。でも、こちらはパッションというよりヤマッけだったけど。それに恨みつらみ、怨念、情念、エロスというくらいのことだった。それでも、画面のどこをとっても味があって、表現にどこか内的なもの、必然的なものとかあったから受賞できたんだろう。旭丘高校の美術科に学んだのも、刺激的なことが多く、おおきかった。3年間の在学中、中部日本美術展や中央の公募団体展に積極的に出品する仲間がけっこういてね。ひろい世の中で勝負しなきゃ、と。荒川修作なんか、描くつもりがないくせにみなの前で100号のキャンバスをはってみせたりね。ずいぶんあおられたもんだ。そう思うと、人生はチャンスをつかまないと。専攻科修了のおり『美術手帖』誌が針生一郎(美術評論家)の推薦で『美術学校になにを学ぶか』という原稿を依頼してきた。そこで、めいっぱい自分を主張してみた。何度も推敲(すいこう)してね。するとのちに同誌から、作家のアトリエを訪問し絵画技法についてインタビューしてまわるという仕事がまいこんできた。左翼系の美術評論家の文体に嫌悪感があったので、『平凡パンチ』の文体でいくぞと心にきめて、これもなんとかこなし、いろんな意味で自分の世界がひろがっていったね」

その後、佐々木は人間のドロドロとした内部を見つめるかのような創作を色彩もゆたかにつづけた。生涯の師となった三尾から、得意とする「女」を描けとのアドバイスもあり、「裸婦の画家」として画壇で確たる地位をきずいていく。近年は、東日本大震災などをテーマにした裸婦も描いてきた。石こうデッサンが大好きであった受験生時代にもどったかのような古典の調子をくわえつつ、佐々木のひろい世界観をより感じさせるような制作となっている。(敬称略)

中山真一(なかやま・しんいち)
1958年(昭和33年)、名古屋市生まれ。早稲田大学商学部卒。42年に画商を始め61年に名古屋画廊を開いた父の一男さんや、母のとし子さんと共に作家のアトリエ訪問を重ね、早大在学中から美術史家の坂崎乙郎教授の指導も受けた。2000年に同画廊の社長に就任。17年、東御市梅野記念絵画館(長野県東御市)が美術品研究の功労者に贈る木雨(もくう)賞を受けた。各地の公民館などで郷土ゆかりの作品を紹介する移動美術展も10年余り続けている。著書に「愛知洋画壇物語」(風媒社)など。

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