そして実際、中村さんの給与は入社時から3割ほど上がった。同社では20年1月から上位職を目指す人のための社内検定制度「トップガン」を開始、合格すれば昇給・昇格が約束される仕組みを導入。年末年始、社内教材を使って猛勉強した中村さんは初代合格者となり、役職も1段階上がった。

SHIFTの社員約3000人のうち、3割はエンジニア未経験だった。独自の入社ウェブテストを設け、専門知識はなくても、「コツコツと正確に作業ができる」「起きた事象を正確に伝達できる」などの素養がある人を採用している。中村さんは「商談をするときに段取りをしっかりする方だった。タスクが集中したときの優先順位付けも経験で学んだ。全く異なる仕事だが、前職でやってきたことは今の仕事にも生かされている」と話す。

転職から1年余り。その後の状況の大きな変化を踏まえて「当時のタイミングで決断して良かった」と振り返る。

スタートアップへの転職は「覚悟必要」

大企業からスタートアップへ移るというチャレンジをしたのは薮大毅さん(26)。新卒で入社した通信企業大手を1年半で辞め、18年12月、理系学生や研究者と企業のマッチングを手がけるベンチャー企業POL(ポル、東京・千代田)へ転職した。

通信大手では歩数計などを使った新規事業に携わっていた。希望していた部署への配属だったが、意思決定が遅い、様々な関係者の思惑が絡まり合い、プロジェクトの方向性がわからなくなるなど、大企業特有の壁を感じた。そして自分も「仕事をこなすだけの人になっていく気がした」。転職を意識し始めた矢先、大学時代に同じ学生団体に所属していたPOL社長の加茂倫明さんに誘われ、研究者のキャリア選択肢を広げるというビジョンに共感して入社した。

入社直後は朝から深夜まで、100件の電話営業をかける激務の日々だったが、「経営人材になりたいという目標があったので、しんどかったけれど辞めようとは思わなかった」。営業責任者として営業体制をゼロから作っていき、その後は人事を経て、現在はマーケティング担当と、様々な仕事を経験し、成長を実感する。

POLでマーケティングを担当している薮さん

正直なところ、給与は下がった。事業拡大でこれから社員も増えることを考えると、福利厚生の制度を充実させるべきだと幹部に進言している。華やかなイメージでスタートアップに憧れる若者も少なくないが、「自分も経営者になったつもりで、一緒に会社や制度などを作っていこうという覚悟がないと厳しい」と薮さんは指摘する。

薮さんに「もし、コロナ禍のいまだったらどうしていたか」と尋ねると、「それでも転職に踏み切ったと思う」との答えが返ってきた。なぜなら、POLへの転職は「会社がやろうとしているビジョンの実現に携わりたかったから」だ。「コロナ禍であったとしても、会社の存在意義は変わりません」と話す。

三者三様の転職だが、3人に共通するのは、自分が成長できそうな環境を選んだことだ。先々の考えも柔軟だ。笠原さんは「将来的には1つの組織に所属するというよりも、複数のプロジェクトに関われるような働き方をしてみたい」と言い、薮さんは「成長したら、また大企業に戻って変革に携わるのもありかもしれない」と口にする。コロナ禍で転職市場の先行きも不透明だが、もともとビジネスも働き方も変化が激しい。転職にあたっては「成長し続ける」という覚悟が重要なのだろう。

(安田亜紀代)

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