「役所は年単位で動くが、ここでは半年先でも『長期プラン』になる」(笠原さん)というスピード感の違いに驚きつつも、新規事業のタネを探す日々は刺激的だ。テレワーク主体で全員が直接顔を合わせることはあまりないが、「遠隔で仕事をするためのツールや仕組みが整っているから、目の前にいなくても不思議とチームで仕事をしている感覚が得られる。まだ若い組織だから、大企業ながらスタートアップのような雰囲気もある」と満足げだ。

未経験でエンジニアに

転職が多いと言われるIT(情報技術)業界。「IT人材は圧倒的に不足しており、未経験でもエンジニアとして採用をする企業は増加傾向だ」(リクルートキャリアのエージェント事業本部、福井耕造マネジャー)という。

ソフトウエアの品質管理を受託するSHIFT(シフト)に19年10月に中途入社したエンジニア、中村麻里乃さん(27)も、もともとは未経験者だ。現在担当するのは統合基幹業務システム(ERP)のプログラムに不具合(バグ)がないかの検証作業。「もし一日でも動かなかったら顧客企業に大損害を与えてしまう大規模システムなので緊張感があるが、『中村さんなら安心だ』と取引先に言ってもらえるのがうれしい」と笑う。入社半年もたたないうちに数人のチームをまとめるリーダーに昇進し、まさに即戦力となった中村さんだが、前職は寝具メーカーの法人営業だ。

学生時代から睡眠に興味があり、寝具メーカーは念願かなって入った会社だった。商品は好きだったが、給与や業界の停滞感については不満を募らせていた。目標を上回る成果をあげても報酬は増えない、典型的な年功序列システム。「結婚したけれど、奥さんにも働いてもらわないとやっていけない」と30歳代の先輩がぼやく愚痴を耳にしたこともある。市場が伸びないから会社も守りのスタイルで、新しい企画を提案しても採用されにくいという閉塞感もあった。5年目の19年春、中村さんは転職を決意する。

営業からエンジニアに転身したSHIFTの中村さん

どうせなら営業以外に転身したいと考えた。「取引先に左右され、出張も多いから結婚、出産しても続けられる気がしない」と感じていたからだ。文系学部出身だが、成長するIT業界で、スキルを身につけてステップアップしていけそうなエンジニアを漠然と志望した。人材紹介会社のキャリアコンサルタントからは「年収を上げたいなら経験のある営業職の方がいい」と言われたが、中村さんは諦めず、求人情報をあたり続ける。そこで未経験OKでエンジニアを募集していたSHIFTと、システム開発会社の2社が目に留まった。

システム開発会社からも内定を獲得したが、面接のときに、将来給与が上がっていくイメージがつかめなかった。一方、SHIFTはソフトウエアのテストに特化した業態だが「年齢ではなく仕事の成果で評価する。19年の平均年間昇給率は10.4%」と明確にうたっていた。「未経験なので年収は一時的に下がっても仕方ないが、先々、上がっていくイメージを持つことができた」ことが入社の決め手になった。

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スタートアップへの転職は「覚悟必要」
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