日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/12/23

いまのイチョウは最後の生き残り

現在の地球には、5つのタイプの種子植物がある。もっとも多いのが被子植物。そして、マツ類、グネツム類、ソテツ類があり、イチョウ類がある。植物界においてイチョウのグループ(綱)には、ただ一種、イチョウ(Ginkgo biloba)しか現存しない。

太古の世界には、さまざまな種のイチョウが存在していたと考えられる。中国中部の炭鉱で見つかった1億7000万年前の植物の化石は、葉の形と種子の数が微妙に異なるが、イチョウによく似た姿をしている。

イチョウは、カブトガニなどと同じように「生きている化石」と呼ばれることが多い。はるか昔にはさまざまな種が存在していたグループの生き残りだからだ。

一説によると、世界中でイチョウが死滅を始めたのは1億3000万年前ごろのこと。被子植物が多様化し、広がり始めた時期だ。現在は、23万5000種以上の被子植物が存在する。被子植物は進化や繁殖、成長が早く、果実や花弁があるため、植物食動物や授粉者にとってイチョウよりも魅力的だ。

「イチョウは、新しい植物との競争の中で、隅に追いやられたのでしょう」とクレイン氏は言う。

新生代になると、6600万年前ごろに始まった寒冷化とともに、イチョウは北米やヨーロッパから姿を消し始める。1万1000年前に最終氷期が終わったとき、イチョウは中国にしか残っていなかった。

人が絶滅の危機を救った?

イチョウの木は強烈な臭いを持つことで知られている。メスの木は種子を作るが、その種子は酪酸を含む肉質外層に包まれている。酪酸は、人間の嘔吐(おうと)物の特徴的な臭いでもある。

では、なぜ進化の中でこのような悪臭を身につけたのだろうか。クレイン氏はこう話す。「私の想像では、臭いが強いものを好む動物に食べられることを狙ったのです。排出された場所で発芽するのです」