そうした活動の軸にあるのは「生きづらさを抱える人に居場所をつくりたい」との思いだ。スケボーはかつて不登校になった岩澤さんに居場所を与えてくれた。そして今は生活の一部であり、自己表現のツールにもなった。片腕にスケボーがあれば、世界のどこへ行ってもすぐに仲間ができる。音楽やファッションのように「好き」というだけで理屈抜きで親しくなれる。「技ができると楽しい、ただそれだけ。相手を否定せずに認める文化がある」。まさに「スケボーはライフスタイル」だ。

プロスケーターがしっかり稼げる仕組みづくりも進めている

当面の目標にはスケボーの地位向上がある。スケボーは今度の東京オリンピックで新種目に採用されたが「プロスケーターのほとんどがスケボーで食べていけないのが現状」。有名プロでもアルバイトしながら練習せざるを得ず、スポンサーとの交渉力も弱い。動画やアパレルブランドといった幅広い活動の背景には、自らがスケボーで食べていくモデルケースを提示する狙いもある。岩澤さんは「スケーターの収入源を増やしたい」とも口にする。

19年に立ち上げたオンラインサロンは当初は無料にしたが「少数でも僕の活動に共感してくれて、互いに信頼し合える仲間を大切にしたい」と、月額1000円の会費制に改めた。100人強のメンバーがいるサロンは現在、その資金でプロスケーター1人に月7万円の「ベーシックインカム」を支給するプロジェクトに取り組んでいる。スケ―ターに金銭的余裕を与えることで、アスリートとしてどう成長するかを見守る「社会実験」だ。支援中のスケーターから週2回ほど届く報告には、気持ちに余裕ができ、練習時間が増えたことなどがつづられている。今後はサロン会員を対象にプロによる有料レッスンなども計画している。

自分にしかできないこと

「プロスケーターがしっかり稼げる仕組み」をつくるため、中高のスケボー仲間と動画共有アプリも開発中だ。スケボー好きが交流できる専用アプリがないことに目をつけ、技を披露する動画を投稿したり、仲間を見つけたりできるアプリを着想した。スポンサーを付けて技の完成度や動画の人気に応じて報酬などを獲得できるようにする。この事業計画は10月に大阪府主催のスタートアップ支援プログラム「第2期スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA」に選出された。

すでにインスタグラム上では、技の動画を投稿する大会を定期開催している。大会はムラサキスポーツや人気スケボーメーカー「Imperial(インペリアル)」が協賛し、専用アカウントのフォロワーは8000人を超えている。

岩澤さんが「尊敬する人」として名を挙げるのが姉の直美さん。直美さんは現在、異文化間教育サービスを手掛けるCulmony(カルモニー、東京・新宿)の代表を務め、高校時代にはベトナムの学校で子供たちに日本の遊びなどを伝える活動をした経験もある。直美さんは「私は石橋をたたかないと渡れないが、弟はとりあえずやってみる行動型」と語るが「偏見をなくし、生きやすい社会をつくるという最終目標は同じ」だ。

都内に自分のスケートパークをつくるのが夢だ

大学4年生の岩澤さんはまもなく卒業を迎えるが「ひとまず就職するつもりはない」。SNSで「SHIMON.くんの動画を見てスケボー始めました!」というコメントをみると、スケボーが日本に広まっているのを実感すると同時に「自分にしかできないことがあるはず」とも思う。都内に自分のスケートパークをつくることも夢のひとつだ。

学校に行かない小学生にその理由を聞かず、ただただスケボーの楽しさを教えてくれた、いつかのスケートパークの大人たち。彼らの優しさは、スリランカで初めてスケボーを見る子の手を取り、乗り方を教える若者にしっかり受け継がれている。

(ライター 菊池友美)

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