預貯金じゃだめ? 自分年金づくりに投資信託のワケ
誰もが気になる老後のお金。公的年金だけでは足りないので、「自分年金」をつくる必要がある、ということは理解できるでしょう。でも、そのために積立投資をしましょう、と言われると「なんで投資なの? 預貯金じゃダメなの?」と思う人もいるかもしれません。
今回は「自分年金」づくりになぜ投資が必要なのかを考えてみましょう。
預貯金でお金は増えない
「自分年金が必要なら、若いうちから預貯金でお金を積み立てておけばいいのでは?」と思うのももっともなこと。今の現役世代の親が若かったころは金利が高かったので、投資などしなくても預貯金だけでお金を増やすことができました。だから「預金だけでいい」「投資なんて必要ない」と思っている人がたくさんいます。
バブル時代と呼ばれる30~40年ほど前は、定期預金(1年もの)の金利が6%ぐらいありました。金利6%の1年定期を自動更新していくと、元金に利息がついて新たな元金となり、それにまた利息がつくという形で、雪だるま式にお金が増えていき、12年で残高が約2倍になります。こういう時代は預金だけしていればよかったのです。
でも、金利はその後下がり続け、25年くらい前からはずっと1%を下回り、2016年には日本銀行がマイナス金利を導入。現在、多くの銀行の定期預金金利は0.002%にすぎません。利息などないといっていいくらいの水準です。
毎月2万円ずつ30年間積み立てたとき、金利が0.002%だと、30年後の残高は720万2166円。30年でたった2166円しか増えません。利息からは税金が差し引かれるので、もっと少なくなってしまいます。今のような超低金利の時代に預金をしてもお金はほとんど増えないのです。
今の現役世代が老後を迎えるまでにまた預金金利が高くなる可能性もないとはいえませんが、かつてのような金利6%ということはもうないでしょう。「金利が上がるかも」と思って預金だけしていて、老後を迎えたとき「やっぱり上がらなかった」となったのでは手遅れ。自分年金をつくるには、預金以外の金融商品に投資しなければなりません。
もう「預金だけでいい」「投資なんか必要ない」という時代ではなくなっているのです。
株や債券ではなく「投資信託」
預金でお金が増やせないのなら、値上がりしそうな株を買ってドカンともうけたらいいじゃないか、なんて思う人もいるかもしれませんが、それが簡単にできるなら、みんながそうしているはずです。
株はうまくいけば投資したお金が10倍以上になるなど大きな利益を得られることがある半面、大きく値下がりする可能性もあり、全般的には値動きが大きい、つまりリスクが高いといえます。
債券という金融商品もあります。債券は満期(償還といいます)が決まっていて、その間はあらかじめ決められた利子が受け取れます。そのため、株より値動きは小さいのですが、受け取った利子を元本に組み入れることができないので、雪だるま式(複利といいます)にお金を増やすことができません。
では「自分年金」づくりに適した金融商品はなんでしょうか。
答えは「投資信託」です。
投資信託は、株や債券に投資する金融商品です。運用会社が"ファンド"を設定して投資家からお金を集め、それで複数の株や債券に投資して運用します。1つの袋にいろいろなお菓子が入っているイメージですね。どんなお菓子を入れるかは、袋ごとに決まっています。例えば、日本の株、先進国の株、先進国の債券といった具合。日本の株と先進国の株というふうに違う種類のものを組み合わせた袋などもあります。
袋、つまりファンドの中身の株や債券は価格が毎日変動するので、ファンドそのものの価格も上がったり下がったりします。でも、その中のどれかが値下がりしても、ほかのものが値上がりすれば、値下がり・値上がりが打ち消しあって、ファンド自体の値動きは小さくなります。また、債券に投資するファンドの場合、保有している債券から得られた利子で別の債券を買うことができるので、雪だるま式にお金を増やすことが可能になります。
株を発行した企業や、債券を発行した国や金融機関などが破綻すると、その株や債券の価値はゼロになってしまいます。それに対して投資信託は、1つのファンドが複数の株や債券を保有するので、そのうちのどれかの価値がたとえゼロになったとしても、ファンドの価格がゼロになることはありません。
株や債券など値動きのある金融商品も、複数に分散して保有することによって値動きを抑えることができます。これが分散の効果。投資信託はファンドを1つ保有しているだけで分散投資ができる金融商品なのです。
投資信託でお金を増やすには時間がかかる
注意したいのは、投資信託は分散投資で値下がりを抑えるぶん、値上がりも抑えられるということ。そのため、投資信託でお金を増やすには、時間をかけて利益を積み上げていく必要があります。でも、自分年金づくりなら、それは問題になりませんよね。現役世代にとって自分年金づくりのゴールは20年あるいは30年以上先ですから。投資信託はゴールまでのその長い時間を活用できます。
先ほどと同じように、毎月2万円を30年間積み立てることを考えてみましょう。投資信託で年平均で3%の運用ができれば、30年後には1165万4738円になり、積み立てた金額720万円に対して445万円あまりが上積みされることになります。税金が差し引かれたとしても、預金で積み立てた場合に比べてはるかに大きな差となることがわかりますね。
投資信託は分散投資でリスクを抑えながら時間をかけてお金を増やしていくためのツール。だから、iDeCo(個人型確定拠出年金)もつみたてNISA(少額投資非課税制度)も、投資信託を積み立てていく仕組みになっているのです。
オフィス・カノン代表。ファイナンシャルプランナー(CFP)、1級ファイナンシャルプランニング技能士。千葉大卒。法律雑誌編集部勤務、フリー編集者を経て、ファイナンシャルプランナーとして記事執筆、講演などを手掛けてきた。著書に「だれでもカンタンにできる資産運用のはじめ方」(ナツメ社)など。http://www.m-magai.net
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