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子宮頸がんリスク、HPVワクチンで63%減 男性も恩恵

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

子宮頸がんなどの予防目的で接種される「HPVワクチン」によって、子宮頸がんの発症リスクが下がることを初めて証明したスウェーデンの論文が、米国のNew England Journal of Medicine誌に発表されました。これまで、HPVワクチンがHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染や、子宮頸がんの手前の「前がん病変(高度異形成、上皮内がん)」を予防する効果は認められていましたが、子宮頸がんの発症については長期間の追跡が必要なことなどから、エビデンスは得られていませんでした。

この論文を含め、最近のHPVワクチンに関係する研究報告および日本の状況を紹介していきましょう。

子宮頸がんの95%以上はHPV感染によって起こる

子宮頸がんは、子宮頸部と呼ばれる子宮の入り口部分にできるがんです。日本では毎年、約1万1000人の女性が子宮頸がんと診断され、年間約1200人(30歳未満)がこの病気によって子宮を失い、約2800人が亡くなっています。最新(2017年、2018年)の分析では、一生のうちに75人に1人の女性が子宮頸がんと診断され、325人に1人は子宮頸がんで死亡すると推定されています[注1]

子宮頸がんの95%以上は、HPVの感染が原因で起こります。HPVは性的な接触により感染します。性交渉の経験がある女性のうち50%~80%はHPVに感染していると推計されています。しかし、HPVに感染した女性が、全員子宮頸がんになるわけではありません。HPVに感染しても、90%以上の人において、ウイルスは2年以内に自然に排除されます。残りの数%の人のうち、数年から数十年にわたってHPVに持続感染していた女性が、子宮頸がんになる可能性を持っています。

HPVには100種類以上のタイプ(型)がありますが、子宮頸がんの発生にかかわるのはごく一部です。それらは「高リスク型HPV」と呼ばれています。日本人の子宮頸がんの約6割は、高リスク型HPVのうちの「HPV16」と「HPV18」の感染によって生じています。

高リスク型HPVに感染した女性の一部で、感染細胞の変形が進み、前がん病変(高度異形成、上皮内がん)になり、異常な細胞が子宮の外側に向けて広がっていくと、子宮頸がんと診断される状態になります。前がん病変の段階、または、子宮頸がんでも早期の場合は、子宮を残して異常な細胞のみを切り取る手術(円錐切除術)が適用されます。さらに進行すれば、子宮や卵巣、周囲のリンパ節まで手術で取り除く必要が出てきます。

[注1]国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」

予防の要はHPVワクチン

子宮頸がんの95%以上は、HPVに感染しなければ防ぐことができます。残念ながら、コンドームでは感染を完全に防ぐことはできません。一番確実な予防策は「生涯にわたって性交渉をしないこと」になりますが、これを徹底したら人類は滅びてしまいます。そこで導入された予防策が、HPVワクチンの接種です。2006年に欧米で発売され、それ以降、世界的に広く接種されているHPVワクチンは、高リスク型のHPV16型、18型と、良性の尖圭コンジローマの原因となる6型、11型の4つの型に対する免疫がつく「4価HPVワクチン」です。このほか、9価のHPVワクチンが、米国では2014年に、欧州では2015年に承認され、その後世界の多くの国で接種されるようになっています(日本では2020年7月に承認を得ていますが、10月20日時点で未発売)。

尖圭コンジローマは、HPVの感染によって性器の周辺に良性のイボが生じる疾患で、やはり性交渉によって感染します。自然治癒する場合もありますが、薬物療法、凍結療法、外科的治療が必要になる場合もあります。

HPVワクチンを接種すると、ワクチンが対象としている型のHPVの新たな感染と、これによる性器のイボと子宮頸部の前がん病変の発生が予防されることは、これまでに示されていました。しかし、上述したように、子宮頸がんは、高リスク型のHPVに感染した後、発症するまでに数年から数十年かかるため、HPVワクチンの接種者と非接種者の子宮頸がん発症リスクに有意な差が見られるようになるまでには、相当な観察期間を必要とします。そのため、HPVワクチンによる子宮頸がんの予防効果を示した研究結果はこれまで報告されていませんでした。

HPVワクチンは子宮頸がんのリスクを63%減らした

今回、HPVワクチンの接種が子宮頸がんの発症率の低下と関係することを初めて示したのは、スウェーデンKarolinska研究所のJiayao Lei氏らの研究グループです[注2]。著者らは、スウェーデンの人口統計と保健に関する全国規模の登録を用いて、2006年から2017年に10歳から30歳だった女性167万2983人を追跡し、子宮頸がんの発症率と4価HPVワクチンの接種との関係を検討しました。子宮頸がんの発症率は、HPVワクチンを接種していた群、接種していなかった群のいずれにおいても、23歳以降に急上昇していました。

結果に影響を及ぼすと考えられる様々な要因を考慮した上で分析したところ、ワクチンを接種していなかった群に比べ、ワクチンを接種していた群では、30歳までの子宮頸がん発症リスクが63%低くなっていまいた。ワクチンを接種した年齢別にみると、17歳未満で初回の接種を受けた女性では子宮頸がん発症リスクは88%低く、17~30歳で接種を受けた女性では53%低下していました。

日本では、HPVワクチンを無料で受けられるのは高校1年生の終わりまでとなっており、17歳になる前に3回の接種が完了するため、接種者は、上記の論文で示された、最大の利益を得られることになります。

[注2]Lei J, et al. N Engl J Med 2020; 383:1340-1348.

日本のHPVワクチン接種率は極めて低い

現在日本では、2価または4価のHPVワクチンが定期接種に組み込まれているものの、接種率は極めて低い水準にとどまっています。2018年の国内での接種状況を見ると、3回の接種を完了していたのは、接種対象となる年齢の女性のうちの0.8%でした。

日本におけるHPVワクチンの定期接種は、小学校6年生から高校1年生相当までの女子を対象に、2013年4月に始まりました。しかし、そのわずか2カ月半後に、厚生労働省は「積極的な接種勧奨の差し控え」を決定しました。一部の接種者に、ワクチンとの因果関係が否定できない持続的な痛みなどがみられ、接種対象者や保護者などの間で不安が広がったためです。以降、日本では、接種者に現れた症状とワクチンとの因果関係は明らかにならないまま、HPVワクチンは、「定期接種に指定されていながら、積極的な接種の呼びかけはほぼ行われない」という状況が続いています。

一方で、世界の状況を見ると、2019年12月の時点で124の国と地域が、HPVワクチンを国民のための予防接種プログラム(日本における定期接種と同様の扱い)に組み入れています。HPVワクチンが世界で初めて承認を獲得した日以来、2億7000万回分のワクチンが世界各国に向けて出荷されました。これは、世界では、HPVワクチンの利益はリスクを大きく上回ると広く見なされていることを意味します。

ワクチンと接種後の慢性的な疲労や痛みは無関係とする報告も

HPVワクチンの安全性に関する懸念が接種率の上昇を妨げている国は、日本以外にもあります。そうした国の1つがデンマークです。そのデンマークから最近、4価HPVワクチンの接種と、接種後に見られた慢性疲労や長期間持続する痛みとの間に因果関係はないとする研究結果が英国のBMJ誌に発表されました[注3]

報告を行ったのは、デンマークのStatens Serum InstitutのAnders Hviid氏らです。同氏らは、デンマーク国民の医療記録データベースなどから、2007年から2016年の期間に10歳から44歳だったデンマーク生まれの女性137万5737人の情報を収集し、HPVワクチン接種後に発症する可能性があると考えられている、自律神経障害を特徴とする疾患(慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群、体位性頻脈症候群)と、4価のHPVワクチンの関係を検討しました。

追跡期間中にこれら3つの疾患のいずれかの診断を受けた女性は869人(10万人・年当たりの発症率は8.21)でした。ワクチン接種後1年以内の「リスク期間」における発症率と、それ以外の期間の発症率を比較したところ、「リスク期間」における有意な増加は見られませんでした(発症率比は0.99)。著者らは、「4価HPVワクチンの接種と、自律神経障害に関連する疾患の間に因果関係があるという仮説を支持するデータは得られず、接種後に自律神経障害関連の疾患を発症したとしても、全くの偶然によると見なされる」と結論しています。

[注3]Hviid A, et al. BMJ. 2020;370:m2930. Published online 2 September 2020.

子宮頸がん死亡を大幅に減らすためのWHOの計画

HPVワクチンにはリスクを大きく上回る利益があると確信しているWHO(世界保健機関)は、低所得国と低中所得国を対象として、HPVワクチンを重要な柱の一つに据えた子宮頸がん撲滅プログラムを推進しています。WHOが目指すのは「90-70-90トリプル介入戦略」と銘打ったプログラムの普及で、HPVワクチンの接種率を90%まで上昇させ、生涯に2度(35歳時点と45歳時点)子宮頸がん検診を受ける女性の割合を70%まで高め、前がん状態以上の患者の90%に適切な治療を実施する、というものです。

このプログラムを推進すれば、今後10年間に、対象国における子宮頸がんによる死亡率は3分の1に減少し、目標が達成できれば、2120年までに78の低所得国と低中所得国における子宮頸がん死亡率は99%低下し、6200万人の女性の命が救えると推定されています[注4]

日本は高所得国に分類され、子宮頸がん治療のレベルは世界有数といえるでしょう。しかし、子宮頸がん検診を受ける女性の割合は、先進国の中では低く、50%未満です。さらに、HPVワクチンの接種率は1%に満たない状態が続いています。この状態が続けば、近い将来、日本の子宮頸がん死亡率が、WHOの強力な支援を受ける低所得国と低中所得国よりも高いことに驚く日が来るかもしれません。

[注4]Canfell K, et al. Lancet. 2020;395:591-603. Published online 30 January 2020.

男性にもHPVワクチンは利益をもたらす

HPVワクチンは、女性だけのワクチンではありません。HPVは子宮頸がんだけでなく、中咽頭がんや肛門がん、陰茎がんなど、男女問わず様々ながんの原因になるため、米国やオーストラリアなどでは、男性へのワクチン接種も推奨しています。男性がHPVワクチンを接種すれば、自分のがんリスクを減らせると共に、パートナーが将来がんになるリスクも減らすことができます。

残念ながら日本では、男性と、高校2年生以上の女性がHPVワクチンの接種を受けようと思えば、定期接種の対象外であるため自費になってしまいます。価格は、3回接種で約5万円です。

日本におけるワクチンへの信頼度は149カ国中最低

HPVワクチンが定期接種になっているにもかかわらず、積極的推奨が行われなくなった流れが、日本の国民の予防接種に対する信頼を失わせたのではないか、と考察している論文も、先ごろ英国のLancet誌に発表されました[注5]。なんと、世界149カ国を対象とする調査で、ワクチンへの信頼度が最低だった国が日本でした。

著者である英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のAlexandre de Figueiredo氏らは、「ワクチンに対する信頼の低下は、予防接種率の低下を引き起こし、ワクチンで予防できる感染症の流行を引き起こし、また、新型コロナウイルス感染症のような新興感染症に対するワクチンが開発されても、接種率の上昇を妨げる可能性がある」と考えて、今回の研究を行いました。

分析したのは、2015年9月から2019年12月までに、世界149カ国で18歳以上の人々を対象に行われた290件の調査(対象者は28万4381人)のデータです。「ワクチンは安全だと思うか」、「子どもたちが予防接種を受けることは大切だと思うか」、「ワクチンは有効だと思うか」という3つ質問に対する回答に基づいて、ワクチン信頼度を評価したところ、世界で最も低いと見なされたのは、日本でした。そうなった原因は、2013年にメディアに大きく取り上げられ、注目を集めた、HPVワクチンの安全性に対する懸念にあると著者らは考えています。

[注5]de Figueiredo A, et al. Lancet. 2020;396:898-908. Published Online 10 September 2020.

医師らによる啓発活動の輪が広がる

今年8月、この状況に危機感を覚えた医師や専門家からなる「一般社団法人HPVについての情報を広く発信する会」が、HPV感染症やHPVワクチンについての啓発活動を行う「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」(https://minpapi.jp/)を開始しました。同プロジェクトのサイトでは、子宮頸がんやHPVワクチンについての基本的な情報から最新の知見まで、信頼できる情報を提供しています。

男性・女性を問わず、もしがんと診断されたら、そのとき自分が受けるであろう大きなショックと、治療に要する時間と費用、闘病生活が、自分や家族に及ぼす影響は計り知れません。HPV関連のがんなら、ワクチンで予防することができます。

今回ご紹介した情報や、信頼できる啓発サイトの情報などを参考に、子どもたちにHPVワクチンを接種させるべきかどうか、接種した場合の利益とリスクはどのくらいなのかをじっくりと考えていただければと思います。接種を受ける際は、インターネットで「HPVワクチンを接種可能な病院」などと検索すれば、最寄りの医療機関を探し出せます。

もし接種後に何らかの症状が現れた場合、対応する医療機関が都道府県ごとに選定されています[注6]ので、ご相談ください。

[注6]ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状の診療に係る協力医療機関及び厚生労働科学研究事業研究班の所属医療機関(令和2年4月1日現在) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/medical_institution/dl/kyoyroku.pdf

[日経Gooday2020年10月22日付記事を再構成]

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

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