最高峰ヨットレースの過酷 海のエベレストと女性6人

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

2020年のヴァンデ・グローブのためにカンパーニュ・ド・フランス号でトレーニングをする英国人スキッパーのミランダ・メロン氏(51歳)。氏は今回のレースに出場する6人の女性たちの一人だ(PHOTOGRAPH BY CAMPAGNE DE FRANCE, VENDEE GLOBE 2020)

怪物のような大波、クジラとの衝突、大海原の真ん中での転覆――いずれもヨットレース「ヴァンデ・グローブ」で起こりえることだ。このレースに出場する選手たちは、単独でどこにも寄港せずに世界を一周することが求められる。

ヴァンデ・グローブは「海のエベレスト」とも呼ばれ、およそ4万8000キロを3カ月かけて航行する、肉体的にも精神的にも究極のレースだ。完走者には世界からの称賛が待っている。最高の栄誉は、2016-2017年のレースでアルメル・ル・クレアッシュ氏が打ち立てた74日間という大会記録を破ることだ。

2020年11月8日に出航した33人のスキッパー(艇長)のうち、6人が女性であり、この数はヴァンデ・グローブ史上最多となる。女性の最年長は51歳のミランダ・メロン氏で、最年少は30歳のクラリス・クレメール氏(年齢はオリジナル記事掲載時のもの、以下同)。出場経験があるのは46歳のサマンサ・デイヴィース氏のみで、彼女にとって今回が3度目の挑戦だ。

過去に女性が優勝した例はないが、上位に入賞した者はいる。エレン・マッカーサー氏は2000-2001年のレースで、優勝者から1日遅れの2位に入った。デイヴィース氏は2008-2009年のレースで4位に入り、惜しくも表彰台を逃している。

「これはプロのセーリング界におけるジェンダー平等が進んでいる証拠です」と、デイヴィース氏は今回の女性選手の数について語る。「ほかの5人の女性たちには、大きな敬意を抱いています。彼女たちは皆、経験豊富なすばらしいセーラーです」

危険と隣り合わせ

1989年に創設されたヴァンデ・グローブは、今ではセーリング界の最高峰と言われている。4年に一度開催されるこの危険なレースを完走することは、それ自体が快挙だ。これまでレースに参加した167人のうち、ゴールに到達できたのはわずか89人にすぎない。

ヴァンデ・グローブのコースは、大西洋に面したフランスの街レ・サーブル=ドロンヌをスタートおよびゴール地点としており、世界三大岬(アフリカの喜望峰、オーストラリアのルーイン岬、南米のホーン岬)を越えて航行する。

レースのスタート地点とゴール地点はフランスのレ・サーブル=ドロンヌ。レース中、参加者たちは巨大な波や氷山など難敵と対峙する(PHOTOGRAPH BY STEPHANE MAHE, REUTERS)

とりわけ厄介なのは南極海で、スキッパーたちは強風と巨大な波、そして氷山と闘わなければならない。

ニュージーランドの脇を通り抜けると、艇はあらゆる地理的な目印から遠く離れた海域に入る。30ノット(時速約56キロ)の高速で航行していると、波にぶつかる衝撃はまるで車の衝突事故のようで、船外に投げ出される可能性もある。

そんなときは、いちばん近くから救助に向かえる者が、レースの参加者である場合も少なくない。サマンサ・デイヴィース氏は2008-2009年のレースの際、インド洋での事故で骨盤と脚を骨折したヤン・エリエス氏を救助するために迂回をしたスキッパーのひとりだ。

エリエス氏のような例は珍しくない。1993年には、ベルトラン・デ・ブロック氏が、緩んだロープが顔面を直撃して舌を切った。デ・ブロック氏は、医師からテレックス(第2次世界大戦の時代に開発されたファクスの前身)経由で届けられた指示に従って、針と糸を使って自分の傷口を縫い合わせた。

2000-2001年のレースでは、イヴ・パルリエ氏の艇のマストがインド洋の真ん中で折れてしまった。パルリエ氏は、自分のヨットと、ニュージーランド沖に浮かぶスチュアート島周辺の漂流物から素材をかき集めて、なんとかマストを再建した。しかしその後、氏はさらに大きな困難に直面する。食料が尽きかけていたのだ。魚と海藻で食いつないだパルリエ氏は、スタートから126日後にゴールした。

彼らはしかし幸運だった。ヴァンデ・グローブは悲劇と無縁ではなく、1992-1993年のレースでは参加者2人が海で命を落としている。

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