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トランス状態で壁画を描いた? 米洞窟に残された証拠

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ナショナルジオグラフィック日本版

幻覚剤と洞窟壁画には、何か関係があるのだろうか。この問題は、研究者の間で長年議論が交わされてきた。世界には、抽象的でサイケデリックとも言えそうな、遠い昔の洞窟壁画が数多く残されている。研究者の中には「昔の人は幻覚剤を使用してこのような壁画を描いた」と考える人もいるが、それを示す物理的な証拠はなく、専門家の間でも意見は割れていた。

ところが最近、米カリフォルニア州南部の洞窟で、国際的な研究チームがその証拠を発見したとする論文が発表された。つまり、この場所には、かつてトランス状態を体験した人がいたというのだ。

2020年11月23日付で学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された論文によると、洞窟の天井に開いた割れ目の間から、400年前のチョウセンアサガオの塊がいくつも発見された。チョウセンアサガオは、強力な精神活性作用があることで知られている。塊は、口の中でかんだ後取り出して、割れ目に詰め込まれたようだった。

この洞窟は、先住民チュマシュ族が暮らした地域のはずれにあり、湾曲した天井に赤い風車のような絵が描かれていることから、風車洞窟と呼ばれている。夕暮れ時に開花するチョウセンアサガオを上から見ると、風車のような形をしている。そのため、洞窟の壁画はこのチョウセンアサガオを描いたものであり、この場所でかつてチョウセンアサガオを使った集団儀式が行われていた可能性があると、研究者たちは考えている。

神聖かつ危険な植物

風車洞窟があるウィンドウルブス保護区は、カリフォルニア州ベーカーズフィールドの南にある広さ380平方キロの保護区で、1995年創立の非営利団体「ワイルドランズコンサーベンシー」が所有する。保護区内には、風車洞窟以外にもいくつかの場所で似たような壁画が発見されている。

風車洞窟の中には、他にも赤い顔料を使って描かれた抽象的な形やシミのようなものが見つかっているが、この風車ほど特徴的な絵はない。夏至の日には、太陽がその上に一筋の光を投げかける。この絵は、地面から約90センチの高さにある天井の傾斜部分に描かれたもので、2002年に考古学者が報告した。

今回の研究を率いた考古学者のデビッド・ロビンソン氏は、20年間カリフォルニア州の洞窟壁画を研究し、記録してきた。2007年から風車洞窟で調査を始め、発掘や放射性炭素年代測定を通して、この洞窟が1530年~1890年ごろまで使われていたことを突き止めた。

天井には50カ所以上の亀裂があり、その中に植物をかんだ後に詰め込まれたと見られる塊が埋まっていた。米国南西部にある古代遺跡で、今回のように人がかんだ後の植物の塊が発見されることは珍しくない。古代の人々は、よくユッカやアガベなどの植物をかんで、栄養を抽出していたからだ。

研究チームは当初、古代の人のDNAが見つかることを期待して、植物の塊を採取した。分析の結果、人につながる遺伝的証拠は発見されなかったが、15のサンプルで分析を進めたところ、チョウセンアサガオに含まれる幻覚性アルカロイドであるスコポラミンとアトロピンが検出された。

走査型電子顕微鏡で撮影した画像からは、ほとんどの塊にチョウセンアサガオの一種「Datura wrightii」が含まれていることが判明した。さらに詳しく繊維を3次元(3D)分析してみると、歯でかみ砕いたときにできるものと同じような痕跡が確認された。

チョウセンアサガオには幻覚作用があるが、多量に摂取すれば命に関わる。どの程度の量を摂取すれば、作用が出るかを予測するのが難しい危険な植物だ。その成分は精神活性物質に分類され、過去には幻覚剤としてスピリチュアルな儀式に用いられたことがわかっている。同じような植物に、ペルーのつる植物アヤワスカや、米国南部からメキシコに自生するサボテンの一種ペヨーテも知られる。

チュマシュ族は伝統的に、成人の儀式の際や、シャーマンが予言を得るためにチョウセンアサガオを摂取していた。彼らの宇宙観によると、チョウセンアサガオは人間に近い特別な植物であり、「モモイ」という名の老女に擬人化されていた。

「チョウセンアサガオは、幻覚剤をはるかに超えた存在です」。こう説明するのは、論文の共著者で、2014年にチュマシュ壁画の研究でナショナル ジオグラフィック・ヤング・エクスプローラー(協会が支援する研究者)に選ばれたデブリン・ガンディ氏だ。「それは祈りの一部であり、浄化と癒やしに用いられる神聖なものなのです」

チョウセンアサガオを使った儀式は、他の先住民の儀式と同様に、米国政府の強制的な同化政策と先祖代々の土地からの追放政策によって、長年抑圧されてきた。先住民の儀式の多くは20世紀になるまで違法なものとされたのだ。

「私たちの祖先は、多くのものを奪われてしまいました」と、テジョン族の報道官サンドラ・ヘルナンデス氏は語る。テジョン族はチュマシュ族とつながりがあり、洞窟の調査にも協力していた。2012年になってようやく先住民として連邦政府の再承認を受けたばかりで、チョウセンアサガオは今も彼らの伝統では重要な植物とされているが、現在儀式では使われていない。

ヘルナンデス氏によると、テジョン族の記録保管庫にはチョウセンアサガオを使ったある儀式の記録が残されているという。それによると、数日間におよんだ儀式でチョウセンアサガオが3回摂取されていた。それだけ多量のチョウセンアサガオを短期間のうちに安全に摂取するためには、どれほど多くの専門知識が必要だったかを考えると、ヘルナンデス氏は記録を見るたびにいつも驚かされると語る。

壁画の意味は?

洞窟壁画がなぜ、どのような状態で描かれたのかを知ることは難しい。しかし、洞窟内に残された考古学的証拠から、その背景についての手がかりが得られるかもしれないと、論文の著者たちは期待している。

「カリフォルニア州の洞窟壁画は、シャーマンが社会から隔絶されて、孤独のなかで描いたものだという説があります」と、ロビンソン氏は言う。壁画は、トランス状態に入ったシャーマン(多くの場合男性)が見たサイケデリックな光景を描いたものであり、その結果こうした壁画のある場所は超自然的なパワースポットとされ、他の者は近寄ることが禁じられたという。

壁画が「あまりにシュールに見えるため、それを描いた人は幻覚剤の影響下にあったに違いないというわけです」と、ガンディ氏は言う。「私もアメリカ先住民として、また考古学者として、確かに一部の壁画が幻覚によって描かれた可能性はあると思いますが、その部分が誇張されているような気もします」

壁画のある場所から証拠が見つかったからといって、必ずしも壁画を描くためにチョウセンアサガオが摂取されていたとは、研究者たちは考えていない。むしろ、風車洞窟の壁画は「ここでチョウセンアサガオを摂取できます」と知らせる看板のような役割を果たしていたのではと解釈している。

また、すぐそばに描かれている赤い形は昆虫のようにも見え、スズメガの仲間を描いたものだという意見がある。スズメガは長い口吻(こうふん)でチョウセンアサガオの蜜を吸い、その効果に酔いしれることが知られている。壁画を描いた人物は、チョウセンアサガオでトランス状態に入った人々と、このスズメガを重ねたのだろうか。

ロビンソン氏は、シャーマンひとりだけでなく、多くの人々が共同でこの場所を使っていたと考えている。ひとりで使用していたにしてはあまりに多くのチョウセンアサガオの塊が発見されているためだ。また、壁画の下の地面には、多くの道具や遺物も見つかっている。この地域の先住民は、成人の儀式でチョウセンアサガオの根をつぶして作ったトロアチェと呼ばれるお茶を摂取していたという記録が残されている。ということは、この洞窟で見つかったチョウセンアサガオも、記録にはないものの、成人の儀式や、狩りに出かける前の準備などで使われていた可能性もある。

現代を生きるヘルナンデス氏にとって、この洞窟を訪れて壁画を眺めることは「完全に個人的な体験」だ。自分の目には、風車の形の壁画は確かにチョウセンアサガオの花に見えるが、そうは思わないという身内もいる。精神的な導きを求めてひとりでこの場所を訪れたり、儀式を行うために集団で訪れたりする場所として、様々な解釈があってもいいと、ヘルナンデス氏は言う。いずれにせよ、自らの過去を知りたいと願う先住民たちへ、風車洞窟は道筋を示してくれるだろう。

(文 MEGAN GANNON、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年11月27日付]

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