交差点で信号待ちをしていた。
小さな何かが飛んできて、フワリとコートの肩に止まった。
おや、久しぶりだね。
雪虫である。
こんな都会で見かけるのはなんだか珍しい。最後に見たのはいつだったか?
信号が青になったので横断歩道を進むと、向かってくる雪虫の数が増えてくる気がする。顔の前にフワフワと四、五匹、縦に並んで飛んでくる。その列を目でたどって行ったら、家々の屋根の向こうに夕日が沈むところだった。
その逆光の中に無数の雪虫が群れて漂っていたのだった。
雪虫とは時に妖精に例えられるほど一匹一匹はかれんな姿をしている。しかしここまでの数になると、ちょっと引く。
これは大雪の前触れ?かと思いきや、実は大量発生には夏の暑さの方が関係しているのだとわかった。
高温が続くと雪虫は早く成長するそうで、産卵時期も早くなる。これが繰り返され大量発生につながるのだそうだ。
肌に付いたのを潰してしまったり、うっかり飲み込んだりしてしまうとアレルギーを起こす場合もあるそうなので、手でたたかずにそーっと離れてもらうのがよい。なので私は頬に止まった雪虫には、口をちょっと曲げて息をふーふーしてどいてもらった。
小さく左右に揺れながら離れて行く後ろ姿は、やはりかれんなのであった。
雪虫。冬の到来を告げる風物詩か。
急に湯豆腐が食べたくなった。
いつも買い物をするスーパーはすぐ近くだ。あそこの絹ごしは私の湯豆腐史上最高においしい。甘みがあってコクがあって、口の中でとろけていくようだ。だが有機国産大豆を使っているからか数が少ない。もしかして売り切れているかも。と思ったら、急ぎ足にならずにはいられない。
店に入ると「あ、いらっしゃいませ」の声。以前は「いらっしゃいませ」だった。「あ」がついてるところが常連になれた感じがしてうれしい。
とか言っている場合でない。
絹ごしさん、おいでですかー?
冷蔵庫の中をのぞくと、おいででした、絹ごしさん!これで今夜の私の湯豆腐は完璧になる。