瑛人の『香水』 音楽界にもたらした変化(川谷絵音)ヒットの理由がありあまる(27)

日経エンタテインメント!

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今回は、大ヒットしている瑛人の『香水』と、それがもたらした音楽界の変化について話したいと思います。

2019年に誰の注目も受けないままリリースされたこの曲は、今年に入ってTikTokに弾き語りのカバー動画が大量に投稿されたことでバズが起こり、サブスクリプションに飛び火していった。ヒットの要因は「ドルチェ&ガッバーナ」というキラーフレーズと、歌いやすさだ。キーも高くもなく低すぎもせず、音程が急に変わることもない。コードも難しくないのでカバーがしやすい。「ドルチェ&ガッバーナ」という誰もが知るハイブランドの名前を引用したことも、TikTokやインスタグラムでの“映え”文化に非常にマッチしていた。メジャーレーベルならこんな有名なブランド名は使えないが、良い意味で何のしがらみもない瑛人だから使えたのだ。そして、誰でも音源が配信できる「TuneCore」というシステムを使い、リリースすることになる。

実際、TuneCoreの登場で曲をリリースすることが容易になり、メジャーもインディーズもアマチュアも垣根がなくなった。『香水』のヒットにより、TuneCoreを経由した楽曲の数がサブスク内で急増している。“誰だってリリースできる”から、“誰だってヒットのチャンスがある”にさらなる進化を遂げたわけだ。サブスクのシステムでは、有料会員の払う会費をアーティストに分配しているのだが、全体の曲数という分母の増加が会員の増加数を上回ったため、アーティストへの1再生あたりの分配金が減少するという事態まで起きている。そういう意味でも『香水』のヒットの影響はすさまじい。

メジャーレーベルの意味が問われる時代が来ている。タイアップや宣伝などがなくてもヒットすることが証明されてしまったからだ。だが僕は『香水』のヒットは、多くの若いアーティストに希望をもたらしたという点で、すごく意味があると思っている。宣伝費がなくてもヒットを生み出せるなんて、昔じゃなかなか考えられなかった。アーティストが自分で楽曲をヒットさせることができる時代が来たのだ。配信の手軽さから来る楽曲のクオリティーの低下と、アーティストへの還元の減少は大きな問題だが、事務所やレーベルの影響力に頼らない音楽弱肉強食時代が来たという意味では、すごく原始的な分かりやすさを兼ね備えている。

まねしやすいMVもバズの一因に

そして、この曲がさらに稀有(けう)な存在である理由は、2次使用のしやすさだ。現にミュージックビデオ(MV)をまねた芸人のチョコレートプラネットの映像は、さらなるバズを引き起こした。制作費があまりなかったことが、まねのしやすさにつながっている。「ドルチェ&ガッバーナ」というキラーフレーズは人に教えたくなるし、弾き語りができなくてもその部分をアカペラで歌うだけで曲への興味を引くことができる。そのうち「ああ、あのドルチェ&ガッバーナのやつね」というシンプルな理解が生まれ、曲が人から人に伝わっていくスピードは増していく。ここまで完璧なマーケティングは誰もできない。これこそ誰も仕掛け人がいない単純な曲のヒットだ。

これから第2の『香水』を生むべく、試行錯誤をするアーティストが増えるだろう。簡単にできるのは、メジャーレーベルでは入れることができない、商品名やキャラクター名などのワードを歌詞に入れ込むこと。この流れは顕著になっていくのではないかと睨んでいる。『香水』レベルのヒットが生まれる可能性は低いが、それなりにバイラルヒットするTuneCore発ヒットは増えていくはず。

まとめると、「歌いやすさ」「2次使用のしやすさ」「キャッチーな商品名やキャラクター名などの歌詞への引用」、これらがヒットの必須項目になっていくだろう。今後は僕らミュージシャンのサブスクへの対応が、これからの時代を作っていく。次なる『香水』は誰か。

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして多彩に活動中。indigo la Endは、ニューアルバム『夜行秘密』を2月17日にリリースする。

[日経エンタテインメント! 2020年11月号の記事を再構成]

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