日経Gooday

読者のみなさんも、今日1日の行動を振り返ってみてください。肩の関節をどれぐらい動かしたでしょうか。「そういえば、今日は一度も腕を高く上げていない」と気づいた人も、少なくないでしょう。ラジオ体操のように、腕を大きく上に挙げる、グルッと回す動きは、日常生活ではあまりしないものです。

人間は、できるだけ体が疲れないような生活様式が身に付いています。例えば、キッチンやダイニングでは、よく使う食器類を取り出しやすい高さの棚にしまっておきます。リビングでは、テレビなどのリモコンを、少し手を伸ばせば取れる位置に置いておくのが普通です。すると、日常的な動作では肩の関節を大きく動かすことが少なくなり、血行不良になりがちになるのです。

血行不良を防ぐためには、腕を大きく回す動的ストレッチが効果的。ぜひ試してみてください。

環境の変化からストレスが増え、肩こりの原因に

さて、ここまでの説明で、筋力不足、血行不良が原因で肩こりが起きることが分かっていただけたかと思います。それでは、定期的に体を動かし、筋力不足とも血行不良とも無縁であれば肩はこらないかというと、そうではありません。肩こりは、ストレスが原因でも起きるからです。

実は、オリンピックに出場するようなトップクラスのアスリートでも、肩がこります。彼ら彼女らは、筋力も十分ありますし、練習中に腕をたくさん動かしているので、血行不良でもありません。それでも、大きな大会の前になると、ストレスから肩こりが起きるのです。

かくいう私も、毎日仕事で体を動かし、動的ストレッチも欠かさず行っていますが、肩がこることはあります。そういうときは、フィジカルトレーナーとして難しい仕事に挑戦しようとしているときだったりします。例えば、これまで指導した経験がない競技のアスリートを教えるときなどです。

以前の記事(「腰痛で病院に 治療せず、なぜ『様子を見ましょう』?」)でも解説しましたが、ストレスが高まると、脳の血流量が減り、前脳にある「側坐核」という部位の働きが低下することで、体に痛みを感じやすくなることが分かっています。そのため、ストレスがあると、肩こりがさらにひどくなってしまうのです。

ストレスから肩がこってしまったら、私は趣味のランニングに出かけます。すると、肩がみるみる楽になるのを実感できます。好きなランニングをやることでストレスが発散できるというわけです。

また、ストレスの原因を把握することも大切です。私が、肩こりに悩むクライアントに「いつから肩こりがひどくなりましたか?」という質問をすると、「そういえば、転職してから…」「結婚を機に、引っ越したので…」といった回答が返ってきます。つまり、環境の変化がストレスの原因になっていたりするのです。

相談者の方も、大事なプレゼンが迫っているときに肩こりがひどくなっているので、仕事の忙しさがストレスの原因となっている可能性はありますよね。

マッサージ中はスマホを置いて「自分を見つめ直す」時間に

肩こりをマッサージだけで治そうとするには無理があるという話をしましたが、一方でマッサージには何も効果がないかというと、そうではありません。私もマッサージが好きです。

マッサージでは、押したりもんだりすることで一時的に血行が良くなるだけでなく、心身ともにリラックスすることで、ストレスが和らぐ効果が期待できます。気分転換の手段の一つと考えればいいのです。好きな映画を見たり、ゆっくり入浴したり、散歩に出かけたりすることと同じです。

私から相談者の方へ提案したいのは、マッサージの時間を、自分を見つめ直すために使うということです。そうすれば、何が自分のストレスになっているのかが見えてくるでしょう。

私が、マッサージの時間こそ自分を見つめ直すのに最適だと知った出来事がありました。それは、大きな大会で、フィジカルトレーナーとして、あるアスリートに帯同したときのことです。

その選手は、試合を控え、「肩がこる」と訴えていました。そこで、メディカルスタッフがマッサージをすることになりました。マッサージが始まると、その選手はスマートフォンを取り出しました。練習中はスマホを見られないので、友人や家族とやり取りしたかったのでしょう。

しかし、メディカルスタッフは、「マッサージ中はスマホを置いて、自分を見つめ直す時間に使いなさい。あなたの肩こりは、ストレスからきているのだから」と言いました。目の前でそのやり取りを見ていた私は、なるほどと感じたのです。

現代社会に生きる我々は、スマホやPC、あるいはテレビの画面から、膨大な情報を受け取っています。マッサージを受けている1~2時間は、そうした情報をシャットダウンすることで、内省できる貴重な時間として使えるはずです。

マッサージの間は、自分を見つめ直し、肩がこる原因を考え、自分の体と真摯に向き合ってほしいのです。そうすれば、今よりずっと、上手に肩こりと付き合っていくことができるでしょう。

【中野さんからのアドバイス】
慢性の肩こりがどうしても治らない人へ…

▼肩こりの原因は、筋力不足、血行不良、ストレスの3つ
▼特に女性で筋力不足の人は、肩周辺の筋トレを!
▼血行不良の対策は、腕を回す動的ストレッチ
▼何がストレスの原因なのか、自分を見つめ直して探そう

(まとめ:長島恭子=フリーライター)

[日経Gooday2020年11月18日付記事を再構成]

中野ジェームズ修一さん
スポーツモチベーションCLUB100技術責任者/PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。フィジカルを強化することで競技力向上やけが予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。元卓球選手の福原愛さんやバドミントンのフジカキペア、プロランナーの神野大地選手など、多くのアスリートから絶大な支持を得る。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くからモチベーションの大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍。『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP)などベストセラー多数。

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