日経ヘルス

2020/12/7

一方、疫学調査の結果では、変形性膝関節症と外反母趾の相関が強いこともわかっているという。

(イラスト:内山弘隆)

つまり、外反母趾は親指だけの問題ではない。だからこそ、外反母趾は出っ張りの部分が痛むだけではなく、さまざまな症状を伴うという。

あまり知られていないのが、外反母趾になると親指の機能が落ちてしまうことだ。

「外反母趾になると、歩行時の蹴りだし動作のときに親指が十分に働かなくなります。これは米国の足病学(ポダイアトリー)の生体力学の理屈になりますが、歩行時に地面をしっかり押して蹴りだすためには、親指の根元のMTP関節がしっかりと反ることが必要です。しかし、外反母趾で親指にあまり力を込めて蹴りだしができないとなると、親指ではなく、第2趾(足の人さし指)、第3趾(足の中指)に蹴りだしの重心が移ってしまいます。するとますます第2趾や第3趾に負担がかかり、タコなども親指ではなく、第2趾、第3趾の下にできやすくなります」

(イラスト:内山弘隆)
(イラスト:内山弘隆)

外反母趾が強くなればなるほど、親指は「歩行」という重要な役割から外れていく。

「外反母趾は歩行バランスを崩し、歩行速度を低下させるというデータもあります。だから、外反母趾は放置せず、きちんと様子を見て対処をしていくことが大切なのです」

足指が硬直しないようストレッチを

では、自分の足が外反母趾では……と思ったら、どうすればよいのだろうか。

「足の親指が変形しているということだけでは、手術や治療の対象にはなりません。『職業上どうしてもこの靴を履かなくてはいけないのに、外反母趾のために痛い』『生活上、どうしても困っている』といった支障があるときに、その状況を改善するために病院に相談した方がいいと思います。治療の選択は、その人が外反母趾によって一番何に困っているかによって始まりますから、一律に治療方法が決まっているわけではありません」

まだ変形が軽度で痛みなどもないのであれば、足指のストレッチをまめに行うことで、外反母趾の進行を予防できるという。

次回は、具体的な足指のストレッチのやり方や治療法について紹介する。

菊池恭太さん
 下北沢病院(東京都世田谷区)足病総合センター センター長。北里大学医学部卒業後、北里大学病院整形外科助教に。その後、横浜総合病院整形外科医長、同院創傷ケアセンターなどを経て現職。日本整形外科学会整形外科専門医。身体障害者福祉法指定医。日本足の外科学会会員。日本下肢救済・足病学会評議員。共著に、下北沢病院の医師たちがまとめた『“歩く力”を落とさない! 新しい「足」のトリセツ』(日経BP)。

(ライター:赤根千鶴子、構成:日経ヘルス 白澤淳子)

[日経ヘルス2020年4月号の記事を再構成]

“歩く力"を落とさない! 新しい「足」のトリセツ

著者 : 下北沢病院医師団
出版 : 日経BP
価格 : 1,595 円(税込み)