本当の「リアルさ」とは何かを考えてみる

――うれしい!! 自分が学生のときは美術の時間が本当に嫌で、すごく覚えているのが版画。あれがすごく嫌だった。手も汚れるし、上手にできないし。

「本来順番があると思うんです。まずは自分の興味とか好奇心に立ち返ってみたり、自分で表現したいことは何かなと探求する時間があったりして、その次に、じゃあそれを表現するためには版画がいいかもしれない、じゃあ版画ってどうやるんだろう、という順番ならやる気が出たかもしれませんよね」

――末永さんの授業って、どんなことをやるんですか。

「例えば、『リアルさ』について考える授業では、サイコロを実際に鉛筆で描いてみたり、ピカソの絵を見たりしながら、リアルな表現とは何か、なぜそう思うのかディスカッションしていきます。ピカソの絵をリアルだと言う人はあまりいませんが、実はピカソ独自の視点でリアリティーとは何かを追求した絵もある。そうすると写真のように描けた絵、遠近法を使った絵がリアルだという考え方に縛られている、ということに気付くことができます。写実に縛られずに、自分なりにリアルさって何だということについて考えるということができるようになります。その後で、『卵をリアルに表現してみよう』と創作をします」

「これは中学1年生の作品です。まずニワトリや卵焼き、マヨネーズなど、卵からすぐ連想できるものをスケッチブックに描いていました。私から、卵で顔料を溶かして描く、テンペラという絵の具もあるよと教えたら、化粧品や肥料など、卵からは遠いけど実は卵が変身したようなものも探していったんですね。そして最終的に作ったのはこの多面体。各面に卵から変化した様々なものを描いています。普通に目にする丸い卵ではなく、卵は七変化するものだということが、その子にとって卵のリアルな表現だったのです」

中学1年生による「卵」の作品

――天才!すごくクリエーティブ。正解がないってこういうことか……!

「クリエーティブや創造力って、答えが一つでないようなものに対して、自分なりに思考することだと私は思うんですね。言い換えれば探究です。子供はアーティストとよく言われますが、成長するにつれ、知らず知らずのうちに持っているバイアスが自分なりの見方を阻害しています。私の授業ではまずそのバイアスをまず認識してもらうということから始めて、バイアスを壊し、視野を広げる手伝いをしています」

――それすごくわかります。人それぞれ考え方見方の癖というか、学習科学では「スキーマ」と呼んでいるその人特有の枠組みがあるんですけど、それをとっぱらうためには「対話」が必要なんですよね。自分の思考の枠組みをとっぱらって広げていく。これっていろんなスキルにもつながっていく超重要なトレーニングになると思います。それには、アートが1番いいのかな。

「別にアート作品でやらなきゃいけないということはないと思っています。でも絵などのアートがいいなと思うのは、もともと決まった答えがないものだからです。アート作品は作者の意図は込められているものの、それで100%完成するものではないんです。鑑賞者が見て初めて成立するというものなので、自由に答えを作ることができる。つまり作品を通して、自分と対話していくことができるんです」

(文・構成 安田亜紀代)

末永幸歩さん
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立ってきた。彫金家の曽祖父、七宝焼・彫金家の祖母、イラストレーターの父というアーティスト家系に育ち、幼少期からアートに親しむ。自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップ「ひろば100」も企画・開催している。著書に『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)
小林さやかさん
1988年生まれ。「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話」(坪田信貴著、KADOKAWA)の主人公であるビリギャル本人。中学時代は素行不良で何度も停学になり学校の校長に「人間のクズ」と呼ばれ、高2の夏には小学4年レベルの学力だった。塾講師・坪田信貴氏と出会って1年半で偏差値を40上げ、慶応義塾大学に現役で合格。現在は講演、学生や親向けのイベントやセミナーの企画運営などで活動中。2019年3月に初の著書「キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語」(マガジンハウス)を出版。19年4月からは聖心女子大学大学院で教育学を研究している。
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録
大学の約束