久留米大附設の生徒に限らず、受験勉強が得意なひとほど大人になってからこういう落とし穴にはまってしまうことはあるのだが、そのときになってようやく、中高時代に恩師が発していたメッセージの意味に気づくわけである。意外に思われるかもしれないが、歴史ある超進学校にはこういう先生がすみついているものだ。
「芸術というのはものをつくり続けるということです。正解なんてわからなくたって、とにかくつくり続ければいいんですよ。そうすれば新しいものに対峙できますから」
世の中はわからないのが当たり前
その日の授業で配られたプリントには、「『分かりにくい』を経験する大切さ」という文章が載せられていた。雑誌からの切り抜きのようだ。
「世の中はわからないのが当たり前なんだから、それくらいでストレスを感じるなよと(笑)」
答えがわからない状態に耐えられず、考えることをやめてしまえば、システムの奴隷だ。
「簡単に答えを出さないスタンスを、私は『知的保留術』と呼んでいます。否定も肯定もしないで、自分の透明なファイルの中にいくらでも詰め込んでおけばいい。そうすればあるときにパッとつながることがあります」
各界で活躍する卒業生たちとの情報交換も頻繁に行う。そこから常に新しい情報を仕入れて、授業の中で「ここだけの話」をたくさん聞かせる。芸術という枠組みを超越している。
「まるで人生教育みたいですけれど、うちの生徒たちはそのあたりのレベルまで話さないと満足してもらえません。人間、年をとるにつれて自らの経験に縛られていくものですが、いくつになっても『センス・オブ・ワンダー』を忘れてはいけませんね。私はいまでも、訳のわからん無限の世界で、サーフィンに乗っているような感じです。いつも揺れ動いているわけです。そんな話を中2の授業の最初にします」
応接室の近くの廊下の壁に、江上さんが描いた巨大な絵画があった。訳のわからん無限の、しかしそこはかとなく自由で幸せな世界観が、描かれていた。
創立は1950年。久留米大学商学部構内に附設高等学校ができた。中学の1学年定員は160人、高校から40人の入学枠がある。学校に男子寮が併設されているので広域から生徒が集まる。生徒の約2割は寮暮らし。2020年の東大合格者数は31人。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の5年間(2016~20年)平均は106.8人で全国12位。同じく国公立大医学部合格者数では全国5位。卒業生にはホリエモンこと堀江貴文氏やジャーナリストの鳥越俊太郎氏、タレントで弁護士の本村健太郎氏などがいる。