久留米大附設の「秀才」支える ゲーセンの人間教育久留米大学附設中学校・高等学校(下)教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

高1の絵画を教える江上寛二さん
通常の進学校では、美術など実技系の授業は受験科目に比べてやや軽んじられがちな傾向がみられる。だが福岡県の久留米大学附設中学校・高等学校では、芸術の教科が必修で力を入れる。芸術を通じて人間教育につなげようという取り組みを教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が聞いた。

<<(上)共学でも「おとこくさい」 久留米大附設の自由と自治
<<(中)演劇・合唱は全国クラス 久留米大附設の名物部活

絵画、美術工芸、陶芸、書道、声楽、器楽から選択

久留米大附設では、中2~3で週3時間、高1で週2時間、「芸術選択」という教科が必修だ。いまや久留米大附設の名物授業のひとつであり、生徒たちの間では「ゲーセン」の愛称で親しまれている。

美術は絵画、美術工芸(立体造形や木彫など)、陶芸、書道、音楽は声楽、器楽(ピアノやバイオリンなど)のそれぞれのコースから自分の好きなものを選び、3年間にわたって1つに特化した「技」を磨く。敷地内には窯を備えた陶芸小屋まである。2021年度からは美術の新たな選択肢として、コンピューター・グラフィックコースができる予定だ。

「ゲーセン」の生みの親が、久留米大附設で教えて47年という超ベテラン教師・江上寛二さん。美術室の机の上にやかんを置き、「おいしいかどうかなんて二の次です。身体に良ければいい」と、野性味あふれる自作のハーブティーをふるまってくれた。73歳だというが、背筋はピンと伸びて、声にも張りがある。何より、笑顔がキラキラしている。

「ここに来たのは中学が設置された3年後。つまり中学からの入学1期生が高1のときです。いまの町田健校長が、その学年にいました。バンカラな男子進学校でしたから、当時の高校には書道も音楽もなく、美術しかありませんでした。壊れた石こう像がぽんと1つあるだけの学校でした」(江上さん、以下同)

現在もう1人いる芸術の国吉房次先生も江上さんの教え子だ。久留米大附設から東京芸術大学に進んだ。05年から段階的に共学化し、女子が増えたこともあり、現在ではおしなべて毎年1~2人の美大系進学者がいるが、当時としては珍しい進路だったはずだ。

「まあ当時としては、いわば、外れもんでございます(笑)。赴任当初は私も頑張って美大系に5人通して満足していたのですが、卒業式の懇親会で保護者が私のところにいらっしゃって、『合格はうれしいのですが、息子をこっち(美術系)に進ませるつもりじゃなかったんですよね……』と言われて、ハッとしました。『受験校』と言われていましたからね」

次のページ
学校の芸術教育では8割が惨敗する
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら