寒くなると食べたくなるものといえばクリームシチューがその1つだろう。とろりとした食感と牛乳を使った濃厚な味わいで冷えたカラダもほっこりと温まる。西洋の料理と思っている人も多いかもしれないが、実は日本発祥で独自の発展を遂げた料理である。
またクリームシチューは「食の論争」の定番ネタでもある。「クリームシチューに合わせるのはパン? ご飯?」「クリームシチューをご飯にかける? わける?」はしばしばネット上で対立する話題だ。その歴史やデータをひも解けば、これらの論争にも決着がつくかもしれない!?
クリームシチューは、鶏肉や豚肉などの肉とジャガイモ、タマネギ、ニンジンなどの野菜を煮込み、ホワイトソースを加え、牛乳やスープでのばして仕上げた料理である。ホワイトソースは鍋でバターと小麦粉を炒めながら練って牛乳でのばし、クリーム状にしたもの。ベシャメルソースともいう。
似たようなホワイトソース仕立ての料理の記録は大正時代より見られたが、その存在が爆発的に広まったのは戦後のこと。学校給食に取り入れられたことがキッカケだ。食糧事情がよくない時代、子どもたちに栄養のある食事を与えようと政府が先導して作ったのがクリームシチューの原型である。
ただし、当初は牛乳ではなく脱脂粉乳を使っており、「白シチュー」と呼ばれていた。それが、次第に牛乳が使われるようになって現在のようなクリームシチューができあがっていったようだ。
そして1966年、クリームシチュー史上もっともエポックメーキングな出来事が起きる。ハウス食品から「シチューミクス」が発売されたのである。
「『シチューミクス』は、当時学校給食で人気だった白いシチューを、家庭で簡単に作れる粉末製品として再現できないかと考案したのが開発のきっかけでした。開発に当たって参考にしたのはアイルランドの『アイリッシュシチュー』という伝統的な白いシチュー。発売当初のパッケージには小さく『IRISH STEW 欧風煮込み料理』の文字が入っていました」と語るのは、ハウス食品事業戦略本部食品事業二部ビジネスユニットマネージャーの田村紘嗣さん。
ホワイトソースは作る過程で小麦粉がダマになってしまうなど、家庭で作るのは意外と難しい。シチューミクスの登場によってクリームシチューは「家庭料理」として浸透していった。
シチューミクスは1972年に粉末から顆粒(かりゅう)に変わり、その後も新製法が採用されたりラインアップが加わったりしたものの、現在も多くの家庭で使われるロングセラー商品となっている。