家電らしくないシンプルなデザインもポイントだ。ブラック1色のボディーなので、ステルス性が高く、お気に入りのギアと並べても違和感なくレイアウトできる。デジタル表示や過度な光の装飾もなく、夜のたき火を邪魔しないので、キャンプの雰囲気を保ってくれるのもうれしい。さらにネルデザインワークス(東京・世田谷)が製作した専用カバーをかぶせれば、見た目も使いやすさもアップ。この専用カバー欲しさにラチタを選ぶという人も増えているそうだ。
エナーボックスSPの最大の特徴といえるのが、防水規格IP44に対応している点だ。これは他のポータブル電源に先駆けた機能で、世界初となる。突然の雨でも気にならないし、湿度が高くなりがちなテント内で使ってもバッテリーが壊れる心配はない。
「高価な商品なので、湿気や雨が原因で壊れてしまっては残念。そこで考えたのが、水が浸入しても、内部の電気系統全般に影響を与えない構造。従来の家電製品の防水規格は水が入らないように考えるが、エナーボックスSPは発想が逆。内部の電気系統すべてに特殊なコーティングを施すことで、水と絶縁状態をつくった。だからぬれても壊れない」(加藤氏)
この機能のおかげで水辺でもちゅうちょなく使うことができる。インフレータブル(空気注入式)のカヤックやSUP(スタンドアップパドルボード)などを膨らませるために、電動の空気入れを使う人は多い。ぬれても大丈夫という安心感は、そんなアウトドアマンたちにとっては待望の機能なのだ。ただし、塩水には対応していないので、海辺での使用は控えたほうが無難だ。
使う家電を掘り下げれば、必要なスペックが分かる
今回のキャンプでエナーボックスSPにつないだ家電製品は次の通り。
・タブレット=1台
・携帯ゲーム機=2台
・電子タバコ=1台
・LEDランタン=3台
・ノートパソコン=1台
・電動空気入れ=1台
・ポータブル扇風機=2台
いずれも充電が切れそうになったら満タンになるまでつないでいたが、それでも3日目の正午時点で容量5分の2が残った。2泊のキャンプであれば、必要十分な容量といえる。
「ポータブル電源は電気をためて、ためた電気を使うというシンプルなもの。だからこそ、充電と給電の転換効率が一番大切。ためた電気をきちんと使えないと意味がない。そもそも100%充電しても、100%使い切ることができる製品はない。一般的なポータブル電源は実質70~80%しか使えないものが多いが、エナーボックスは95%以上のパフォーマンスを発揮する」(加藤氏)
つまり表記容量500ワットアワー(wh)というポータブル電源の転換効率が75%の場合、実際に使える電気は375whしかないということ。エナーボックスシリーズは表記容量444whで95%の転換効率なので421wh取り出せる。表記容量のスペックを見比べただけでは真の実力が分からないので注意が必要だ。
もちろん、使う家電によって選ぶべきモデルは変わってくる。筆者のようにスマホやゲーム機、LEDランタンなどの充電がメインであれば、容量は400whあれば十分だ。
「家電ごとに消費電力は決まっていて、例えば20ワットの製品を10時間使い続ける場合は200whが必要になる。自分が使う家電のスペックを掘り下げていけば、ベストなポータブル電源が見つかるはずだ」と加藤氏。
これから寒い季節になると、電気毛布などをキャンプで使いたいというニーズもあるだろう。その場合、上記のような計算をしっかりしておくことが大事。特に熱を発生させる電化製品は消費電力が高いので、そうした用途の場合は1300wh前後の大容量モデルが必要となる。ただし、値段も10万円を楽に超えてくる。
「今後、ポータブル電源の需要が高まることを考えると、人によって使いたい家電の種類は変わってくる。21年の春から夏には容量や出力が異なる2モデルを投入する予定だ。ユーザーの用途に合わせて選べるようにしたい」(加藤氏)
アウトドアや防災でのニーズはもちろん、コロナ禍においてはテレワークなど家庭でも活用している人が増えている。リビングで仕事をするとき、延長ケーブルだとコードが引っかかる恐れがあるが、ポータブル電源を手元に置いておけばその心配もなくなるというわけだ。ニューノーマルな生活にも役立つポータブル電源。値の張る製品だけに、事前のリサーチと、用途に合ったモデルの見極めが重要だ。
(文・写真 松井直之)
[日経クロストレンド 2020年10月23日の記事を再構成]