前向きな試行錯誤こそ、危機突破への糧

――「次のチャレンジ」の計画は?

中澤 ストラディヴァリウスとは別のテーマで、再びヴァイオリンの世界的フェスティバルを開催します。

前回のフェスティバルでは、来場者がどのくらい集まるか予想がつきませんでした。私は「大にぎわいになる!」と言い続けましたが、正直、不安もありました(苦笑)。しかし、ふたを開けたら連日の大盛況、大きな自信になりました。ただし、ウィズコロナの環境では「密」は避けねばなりません。

では、コロナ以前のことはもう参考にならないかと言えば、そうではありません。次のフェスティバルでは、コロナ禍中の美術展などで採用された事前予約制を採りたいと考えています。大盛況の実績があるからこそ、それを前提にしつつ、コロナ禍での試行錯誤から見出した対応策の中からベストな方法を選ぶことができます。

――コロナの感染拡大が始まった当初、「不要不急」というフレーズが盛んに使われ、芸術・文化の分野はその矢面に立たされた感がありました。

中澤 不測の緊急事態に際して、国家的支援は大変重要で不可欠なものだと思います。ただし、医療はもちろん、製造、物流、小売り、飲食等々、あらゆる分野の人たちの働きが私たちの生活を支えていて、それぞれに支援を必要とする中、芸術だけが特別と甘えてはいられません。

日本ヴァイオリンでは、フェスティバル以前から取り組んでいる「若手演奏家への楽器の無償貸与」プロジェクトへの協力をコロナ以降も継続しています。これはカレーのココイチで知られる壱番屋の創業者・宗次徳二さんの取り組みにご一緒させていただいているもので、貸与する演奏家の選定や楽器の管理などに協力しています。

高級弦楽器市場について言えば、コロナ禍でも多くの取引が行われています。特に、現存するのは600挺のみ、300年にわたって価値を減じることなく今も高騰を続けるストラディヴァリウスは「超安定資産」として改めて注目を集めています。もちろん、楽器商として高額の取引はうれしいことですが、半面、ただ高額な資産として扱われ、倉庫に厳重に仕舞われてしまうのは残念でなりません。

私どもでは売買にとどまらず、購入者と演奏家の間をつないで貸与のお手伝いをし、多くの皆さんが素晴らしい音色を楽しめる機会を増やす取り組みに力を入れています。

18年のフェスティバル成功の後、満足感に浸って無為に時を過ごしていたら……と思うと、冷や汗が出ます。もちろん、今回のコロナ禍が最後の危機ではないはず。未知のウイルスや天災等々、「芸術・文化などは後回し」とされる恐れは消えません。そんな中、一人でできることは小さいかもしれない。でも、自分にできることは何かと常に考え続けることは、決してムダではないと信じています。

(聞き手は日経BPコンシューマーメディア局 坂巻正伸)

中澤創太
日本ヴァイオリン 代表取締役社長。
1985年東京生まれ。父はヴァイオリン修復家、母はヴァイオリニストという音楽家系に生まれ、幼少より国際的に活躍する音楽家と触れ合いながら育つ。15歳で渡英。インターナショナルスクールに通いながら、オークション大手サザビーズや、世界的な鑑定家ピーター・ビドルフ氏のもとに出入りし、十代から数多くの名器に触れる。上智大学外国語学部を卒業後、電通へ入社。営業を経て、メディアプランナーとして数々の音楽・文化プロジェクトに関わる。2014年、日本ヴァイオリン社長に就任。ディーリングも含め、今まで手にしたストラディヴァリウスは70挺を超える。18年、21挺のストラディヴァリウスがアジア史上初めて集結する「東京ストラディヴァリウス フェスティバル2018」の実行委員長及び代表キュレーターを務めた。

TOKYOストラディヴァリウス1800日戦記

著者 : 中澤 創太
出版 : 日経BP
価格 : 1,870 円(税込み)

ビジネス書などの書評を紹介