「絶滅危惧種」を脱するために

――中澤さんを「世界」へと駆り立てる原動力は何でしょう?

中澤 日本のクラシック界への危機感です。

演奏家や指揮者として世界で活躍する日本人は数多いし、海外の有名楽団が来日すれば高額チケットも完売、どこが危機といぶかしがる方もいるでしょう。しかし、ホールに来場する人はいつも同じと考えると、どうでしょうか。今、日本で「クラシックが好き」という人は1%以下、いわば「絶滅危惧種」なのです。

私がフェスティバルを日本で開催しようと考えたのは、クラシック音楽やヴァイオリンの素晴らしさを改めて広く知ってもらいたいと思ったからです。にわかファンも大歓迎。お子さんの来場もOK、楽器の撮影もOKなど「業界の常識」にとらわれない形を採りました。

何より重視したのは「本物」を見てもらい、聴いてもらうこと。19年にラグビーのワールドカップが日本で開催され、ラグビーと縁がなかった多くの人を惹きつけたのは、世界最高峰のプレーでした。「本物」を目の当たりにした時、人はその魅力から目を離せなくなる。つまり、本気でファンをつかむには、本物を見せなければならない。

私がヴァイオリンの最高峰とされるストラディヴァリウスにこだわり、中でも逸品をそろえ、展示のみならずライブ演奏の実現に注力したのは、まぎれもない本物を体感してもらいたい一心からでした。

フェスティバル会場にはヴァイオリン最高峰ストラディヴァリウス21挺が展示された

――そうした取り組みを通して、関心を持つ人も増えてきたであろう折、コロナ禍で軒並みコンサートが中止となったことは改めて残念でした。

中澤 しかし、こうした逆境にこそ「何か手はないか」と考えることが大切だと思うのです。私自身、フェスティバルの準備段階で、世界中からNOを突き付けられたときも「できるまでやる!」という決意を胸に突き進みましたので、諦めないことには自信があります(笑)。

例えば、ホール公演が中止される中、「オンライン公演」が数多く開催されました。これは新たなファン開拓の有力な一手になるはず。「ホールに足を運ぶのはちょっと気後れするなあ」という人も、良質なストリーミングライブを気軽に楽しむことができますから。

他方で、ライブの素晴らしさが改めて認識されることにもなりました。ホール公演の再開に向けて、運営方法などを検討する非公開コンサートに立ち会った際、やはり生の演奏はすごいなと実感しました。今後はデジタルとライブ、そのハイブリッドによって、より多くの方たちが楽しんでくれるようになればうれしいですね。

――ライブと言えば、11月にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーが行われました。

中澤 楽団員は来日前から感染防止を徹底し、「集団隔離状態」での移動など万全の対策で臨み、ファンを魅了しました。さて、これを「ここまでしなければ実現できない」と考えるか、「対策をしっかりすれば実現できる」と考えるか。私はもちろん、後者です。

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前向きな試行錯誤こそ、危機突破への糧
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