AI使って不妊治療法を助言 角田夕香里さん
vivola社長(折れないキャリア)
高額の費用を払うことも少なくない不妊治療。少子化対策のため保険適用も検討されている。人工知能(AI)の技術を活用し、客観的な治療法を助言するサービスを始めたのがvivola(ビボラ)の角田夕香里社長だ。自身も病を患った経験から、女性の不安に寄り添う事業を手がける。
大学院では光学ディスプレーの研究に没頭した。ベンチャーに興味があったが、大手で研究開発もしたい。揺れる気持ちはあるベンチャーの社長から受けた助言で固まる。「大手を経験してからでも遅くはない」。背中を押され、ソニーに入社した。
ソニーでは様々な製品に応用される基盤技術の開発に携わった。会社の研究開発戦略を学び、次世代リーダーを育成するプログラムにも参加。新規事業でマイクロ流路技術を活用したアロマディフューザーなどの製品化にもかかわったが、3カ月ごとに資金を調達する厳しい競争環境に苦しむ。地方で勤務し、同様に多忙を極める夫とは年に1~2回会う程度だった。子供がほしいという思いもあり、8年目に退社した。
スタートアップのコンサルタントとして独立した後、待望の妊娠がわかった。だが、悲劇が訪れる。妊婦健診の一環で受けた検査で子宮に前がん病変が見つかった。さらに妊娠6カ月で死産する。海外の文献などで治療法を探すうちに、日本では病気を抱えた人が最適な不妊治療を選ぶための情報が乏しいことに気づいた。「経験を自身の内にとどめておきたくない」との思いが湧き上がった。
AIを活用し、膨大なビッグデータを分析すれば、費用や治療方針に悩む女性の指針になる。そう考え、年齢や治療歴の異なる女性約300人のデータを集めて分析を開始。今年5月に創業した。
データ提供者の輪は約1000人に広がった。コロナ禍で遠隔医療に注目が集まっている。「サービスを広げられれば、地方の女性とそれぞれの人に最適な不妊治療を提供する大都市の医師をマッチングできる」。そんな将来図も思い描く。
事業領域を広げ、唾液などから簡単に女性の健康データをモニタリングできる機器の開発も目指し始めた。思春期から更年期まで多くの女性の悩みに応えるためだ。悲しみの淵からの挑戦が本格化する。
(聞き手は生活情報部 荒牧寛人)
[日本経済新聞朝刊2020年11月30日付]
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