日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/12/13

あふれかえる観光客

エディンバラの旧市街と新市街は1995年に世界遺産に登録され、年間約500万人が訪れる。世界最大規模の芸術祭と言われる「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」だけで、例年200万人もの旅行者がやって来る(2020年はオンラインで開催)。こうした人気は街に活気と経済的な利益をもたらす。しかし、人口わずか2万6000人のエリアに、収容しきれない数の旅行者が押し寄せることから、エディンバラ中心部は世界有数のオーバーツーリズムのホットスポットとなっている。

たくさんの人や車が流入するため、エディンバラの歴史地区は汚染された観光地になるリスクがある。実際、イタリアのベネチアやトルコ、イスタンブールのスルタンアフメト地区も旅行者で混雑し、世界遺産に登録されながら、地元の文化を見ることが難しくなっている。エディンバラのツアーガイド、ロバート・ハウイーさんは「旧市街は住みにくい場所です」と話す。「おみやげ用のキルトの方が、牛乳より手に入りやすいのですからね」

歩行者専用道路は、COVID-19対策の一環だが、同時に街の保護策にもなっている。エディンバラの世界遺産を監視する「エディンバラ・ワールド・ヘリテージ」の広報担当者ニコラス・ホサム氏は「旧市街の交通量が多いと、空気が汚れるというだけでなく、見た目も悪くなるという問題がありました」と述べている。自動車の通行を禁止にすれば、「道路状況が改善し、世界遺産への理解も深まります」

排ガスと無縁になったエリアで商売を営む人々は、車への依存を減らした都市の姿を垣間見ている。マシュー・シャウファーさんは曲線を描くカラフルなビクトリアストリートで、マリアッチというメキシコ料理店を経営している。ビクトリアストリートは、地元在住の作家J・K・ローリング氏の作品「ハリー・ポッター」シリーズに登場するダイアゴン横丁のモデルと考えられている美しい通りだ。「歩行者専用道路になってから、人々は散策したり写真を撮ったりしながら、ゆっくり時間を過ごせるようになりました。ビジネス上も良い効果が出ています」とシャウファーさんは話す。

エディンバラ旧市街のビクトリアストリート。パンデミックをきっかけに、歩行者専用道路に生まれ変わった。18世紀のカラフルな建物が並ぶこの通りは、地元の作家J・K・ローリングの「ハリー・ポッター」シリーズに登場するダイアゴン横丁のモデルと考えられている(PHOTOGRAPH BY HOPSALKA, GETTY IMAGES)

車が締め出されたことを歓迎しない人もいる。ハウイーさんはエディンバラ歴史地区ウオーキングツアーのガイドをしているが、パンデミックの影響で、ツアーの規模がグループ単位から家族単位に縮小された。歩行者専用道路は旅行者にとってプラスでも、住民にとっては不都合が多いとハウイーさんは考えている。「通りを閉鎖することは、エディンバラ市にとっては良いことです。しかし、(真夏やフリンジのようなイベント期間中など)混雑しているときしか良い効果はありません」

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車が入れなくても混雑する世界遺産も