2020/12/6

緑色に染まる湖

変化は五大湖流域の全域で起きている。

海洋を航行する船舶が外から持ち込む二枚貝、イガイは大きな脅威だ。イガイの侵入でこの35年間にエリー湖の珪藻(けいそう)の個体数は90%減った。アフリカのサバンナの草が、これほど減ったら世界中のメディアが大々的に取り上げると思うが、エリー湖の珪藻の激減はあまり注目されていない。

珪藻は湖水中にも酸素を供給し、珪藻がいなければ、湖は酸欠状態になる。珪藻は湖の食物連鎖を最下層で支える生き物でもある。つまり、珪藻が元気なら、湖のあらゆる生き物が元気、ということだ。

ダルースから900キロ南東、米国オハイオ州トリードに近いエリー湖岸にあるモーミー・ベイ州立公園のビーチでは、夏空の下、数人の女性たちが標識の周りに集まっていた。そこにはこう書かれていた。「危険 湖水には絶対に触れないでください。安全基準を超える藻類の毒素が検出されました」

厄介なのは、地球上のほぼすべての湖や川、海に太古の時代からすむシアノバクテリア(藍藻)だ。水が温かく、汚染されていれば、爆発的に増殖して水面を覆う。その死骸が分解されるときに水中の酸素が消費されるため、湖の広い範囲が酸欠の「死の世界」になる。

湖の水質を改善するための保全努力が逆効果になっていることも分かった。1990年代にエリー湖流域の多くの農家が「不耕起栽培」を始めた。毎年春に畑に肥料をすき込むのではなく、ペレット状の肥料を土の上にまくのだ。土を耕す農家が減ったおかげで、表土の流出は減った。想定外だったのは、藻類の栄養となるリンの流出が増えたことだ。ペレット状の肥料は深さ5センチほどの表層にあるため、降雨で土壌中の水分が飽和状態になると、リンが溶けた水が湖に流れ込むのだ。

エリー湖にリンを流出させた春の豪雨のせいで、この地方の畑では2019年春の作付けが遅れた。農機が使える程度に土が乾くまで何週間も待たなければならなかったからだ。

ミシガン湖周辺でも同じような状況だ。湖岸から20キロほど東にある町、ミシガン州ハートフォードで農業を営む26歳のケーレブ・コルバーグは、「今年(2019年)作付けされなかった畑の面積は過去最大でしょう」と話していた。大半の農家は農地の4分の1程度の作付けを断念したという。

スペリオル湖:米国ミシガン州のアッパー半島を流れるハリケーン川。この川が注ぐスペリオル湖は表面積で世界最大の淡水湖で、五大湖の水の半分以上をたたえるが、外来種や冬季の氷の減少など、数々の脅威にさらされている(PHOTOGRAPH BY KEITH LADZINSKI)

(文 ティム・フォルジャー、写真 キース・ラジンスキー、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年12月号の記事を再構成]

[参考]ここでダイジェストで紹介した記事「傷ついた五大湖」は、ナショナル ジオグラフィック日本版2020年12月号の特集の一つです。このほか、子どもをやさしく眠りに導く世界の子守歌、ロシアの極北地方の長い極夜の暮らしを幻想的な写真で紹介する「北の果てで見る夢」、毎年14万人近くの人がヘビにかまれて命を落とす現状をリポートする「命を奪うヘビの毒」などが収録されています。Twitter/Instagram @natgeomagjp

ナショナル ジオグラフィック日本版 2020年12月号[雑誌]

著者 : ナショナル ジオグラフィック
出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 1,210 円(税込み)


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