国体にミスで出られず、食事を意識して実力を上げたいと思った

愛情弁当の甲斐あって日本体育大学に進学した頃には貧血は収まった。だが、寮生活で環境は暗転する。寮の食堂は夜にお粗末な食事が出るだけで、朝は各自が自前で用意しなければならない。「いつもパンにバターとジャム。ピザがごちそうだった」。今ではちょっと信じがたい話だ。

「寮の女子は体形がみんな同じじゃないか」。ある先生が指摘した。「みんなぶよぶよの締まりのない体つきでした」。栄養バランスの偏りのためだ。それでようやく、ご飯と味噌汁と卵の朝食が食堂で食べられるようになったという。「スポーツ選手が食事を気にするようになったのは、ずっと後のことです」

アトランタ五輪で専属の栄養士

「チーム有森」として96年のアトランタ五輪で2回目のメダルを取りにいった時、初めて専属の栄養士が加わった。故小出義雄監督は食事に厳しかった。「監督と相談しながら、練習メニューに合ったバランスの良い献立を朝も夜も用意してくれました」

食のこだわりには理由がある。ある「事件」があったのだ。リクルートに入社後、国体の最終予選で1位になりながら、登録ミスで出場がかなわなかった。「誰も謝ってくれませんでした。逆に『実力がないからだ』と言われた」。食事を含めたあらゆる努力で「強くなってやる」と自分に言い聞かせた。「その時の怒りが私を変えました」

2大会連続の五輪メダルという結果がどうしても必要だった。「初めて自分で自分をほめたい」。アトランタ五輪で最も有名なあの言葉は、誰も知らない決意で体を鍛えベストの準備をした結果生まれた。そしてその誇りがプロランナーの草分けとして活躍してきた今につながっている。

新型コロナ感染拡大で思うことがある。「みなさん免疫を高めることを意識して、食事について考える時間が増えた」。パンデミックは今回だけではないだろう。「今は食を知るチャンス。昔は当たり前だった旬の食材をしっかりとれば、必ず免疫は高まります」。そしてこう付け加えた。「日常的にこれほど様々な食材を選べる国は、世界中にそんなにないと思う」

【最後の晩餐】迷わずおにぎりですね。手のしわとしわを合わせてにぎる幸せのソウルフード。大学時代、バレンタインデーに好きだった同級生に1合の巨大おにぎりをあげたこともあります。あれは迷惑だったかな。具は梅干しと生タラコで締めたい。それが究極のぜいたくなんです。

特徴あるシャルキュトリー

ビストロ・トポロジーの「シャルキュトリー盛り合わせ」(東京都目黒区)=五十嵐鉱太郎撮影

ハムやパテなどの肉の加工品をシャルキュトリーという。本場の味を求めてフランス人も来る店が、JR目黒駅近くにあるフランス郷土料理の「ビストロ・トポロジー」(電話03・6420・0136)だ。有森裕子さんがまず最初に頼むのはシャルキュトリーの盛り合わせ(写真は8種類、2860円)。「一つ一つ味に特徴があって本当においしい。先日はテークアウトして家で食べました」

オーナーシェフの小田利也さんは妻の未来さんと2人でもてなす。こだわりは旬の国産豚をメニューに合わせて吟味すること。約25種類のシャルキュトリーは2週間ほどかけて仕込む。「ワインに合うように塩をしっかりなじませて味は濃いめにする」と小田さん。保存料をほぼ使わない自然な味わいが有森さんのこだわりと重なる。

(大久保潤)

ありもり・ゆうこ 1966年岡山県生まれ。日本体育大学卒、リクルート入社。92年バルセロナ五輪女子マラソン銀メダル、96年アトランタ五輪同銅メダル。スペシャルオリンピックス日本理事長。インスタグラム(yuko_arimori_official)で講演会などの情報を発信している。

[NIKKEIプラス1 2020年11月28日付]

エンタメ!連載記事一覧