リアルとの相乗効果で稼ぐ 中国ITビジネス次の一手『中国デジタル・イノベーション』

デジタル化競争が激しさを増す中国で、主戦場はどこに移るのか
デジタル化競争が激しさを増す中国で、主戦場はどこに移るのか

世界の注目を集めている中国プラットフォーマーのビジネスモデルに、限界が見え始めている。今回紹介する『中国デジタル・イノベーション』は、IT大国のビジネスと経営に精通する専門家が、大きな変化の潮流を分析した一冊だ。「コロナ後」の展望を含めて、デジタルビジネスがこれからどこへ向かうのか見極めるのに最適なハンドブックといえる。

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百度(バイドゥ)、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)の頭文字をとって「BAT」と呼ばれる中国のIT企業は、米国の「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)に対抗しうる大きな存在になってきました。その特徴は、社会の“困りごと”の解決に事業機会を見出し、政府の支持も得ながら急速に成長してきたことです。一つの起点として位置づけられるのが2015年に導入された「インターネット+(プラス)」と呼ばれる政策。インターネットで「つながり」をつくることにより、経済取引を活性化して新市場創出を促す目標を国家として掲げました。

一方で、最近は中国政府の姿勢が「まずはやらせて、必要に応じて規制する」から「政府による掌握」へと変わる兆しも出てきました。18年3月にはテンセントの主力のゲーム事業で、当局が新作ゲームの審査を凍結しました。テンセントは新作ゲームを一時出すことができず、収益に悪影響がでました。20年11月には、アリババ集団を巡って傘下の金融会社アント・グループの大型上場が当局の規制変更の影響で延期になっています。続いて中国の規制当局が巨大ネット企業の独占的な行為を規制する新たな指針の草案を公表したことも話題になりました。

個人の信用を評価する

岡野寿彦氏

こうした中国デジタル産業の最新動向を扱った本書の狙いは「中国のデジタル・イノベーションの発展要因と変化を明らかに」することです。さらに「その分析を通じて、新たな競争環境のもとで日本企業にどのようなチャンスがあり、どう対応していけば良いのか、提言する」ことを目指しています。

著者の岡野寿彦氏はNTTデータ経営研究所シニアスペシャリストです。上智大学法学部卒。NTTデータで1995年から中国郵便貯金システム構築にプロジェクトマネジャーとして参画しました。98年に北京現地法人トップ。その後、インド・東南アジアのITサービス事業責任者を経験。中国人民銀行系企業グループとの合弁企業の経営陣ナンバー2を経て、16年から現職です。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」研究員や日中関係学会評議員も務めています。

中国で事業を展開しているプラットフォーマー(インターネット上で大規模なサービス提供をしている企業)の特徴は、ビッグデータを使って「信用体系」をつくり出す点です。代表的な例が信用スコアサービスです、個人の決済情報などをもとに与信管理をしています。日本では「中国政府による監視社会の担い手」と受け止める向きもあります。こうした中国社会の特性について、著者は次のように記します。

中国は、国民のさまざまな行動において「実名制」がとられている。航空券、乗車券の購入などに加え、著名観光地の入場でも、統一の身分証番号で個人が特定された「実名登録」が必要な場所が増えている。アリペイ、WeChat Payなどのモバイル決済は、加入時に身分証番号と携帯電話番号を登録するため、誰がどのような買い物を行い、サービスを受けたのか情報が残る。そして、スマホのGPS(全地球測位システム)での現在地捕捉、街角の監視カメラによる人物特定などとあわせ、個人の行動が捕捉される社会になっている。
(第1章 中国のプラットフォーム・ビジネス 57ページ)
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