2020/12/14

高値で取引されるサメの肝臓

アイルランドのキール・ハーバーでサメの肝臓を取り出す漁師たちを撮影した古い写真(PHOTOGRAPH BY HULTON-DEUTSCH COLLECTION, CORBIS, CORBIS VIA GETTY IMAGES)

サメの肝臓は、何世紀もの間、食料やエネルギーとして使われてきた。たとえば18世紀のヨーロッパでは、サメの肝油が街灯の燃料に使われていた。繊維、食品の着色剤、化粧品にも使われている。

スクアレンがアジュバントとして使われるようになったのは、1997年からだ。バイオ医薬品の米カイロン(現在はスイスのノバルティスに買収されている)がインフルエンザワクチン「FLUAD」のアジュバントとして使ったのが最初で、その後は英グラクソ・スミスクライン(GSK)やノバルティスなどの大手製薬企業も、季節性インフルエンザや豚インフルエンザのワクチンにスクアレンを利用するようになった。

捕獲されたサメの大多数は、マグロやイカ、サケなどを対象にした合法的な漁で混獲されたものだが、報告漏れもあり、合法的な混獲と違法な漁を区別してそれぞれの漁獲量を特定するのは難しい。取引されたサメの種類が記録されることもほとんどない。

サメの肝臓の需要に対応するため、インドネシアやインドを中心にサメ専門の漁師や加工業者、貿易業者が現れるようになった。サメ専門の漁師は、肝臓だけを目的にサメを殺し、その他の部分は海に捨ててしまう。

陸上の処理施設では、肝臓を細かく切って煮たうえで、タンクに入れて遠心分離機にかけ、油を採取する。そして、世界に向けて輸出する。スクアレンの含有量によっては、1トンのサメの肝油が数千ドルの価値になることもある。

非営利団体「ワイルドライフリスク」の2014年の報告によれば、中国南東部のある工場は、ウバザメ(Cetorhinus maximus)や、保護対象となっているジンベエザメ(Rhincodon typus)を毎年600頭ほど違法に処理しているという。

サメは「海の白血球」

スクアレンはすべてのサメに含まれるが、特に狙われやすいのは肝臓が大きく油の含有量が多い深海サメだ。こういったサメは成長が遅く、繁殖可能になるまでに10年近くかかる種もある。そのため、乱獲が深刻な影響を招きやすい。

肝臓の需要が高い60種のサメの半分近くを、国際自然保護連合(IUCN)は特に絶滅の危険度が高い種としている。その中には、近絶滅種(Critically Endangered)であるアカシュモクザメや、絶滅危惧種のバケアオザメ(Isurus paucus)、ジンベエザメなども含まれる。こういった種のほとんどは、野生動植物の国際取引を規制するワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で保護されている。

次のページ
求められる代替品
ナショジオメルマガ